デラクール夫妻は、翌日の朝十一時に到着した。ハリー、ロン、ハーマイオニー、それにジニーは、それまでに十分じゅうぶん、フラー一家に対する怨うらみつらみをつのらせていた。ロンは左右そろった靴下くつしたに履はき替かえるのに、足を踏ふみ鳴らして上階に戻ったし、ハリーも髪かみをなでつけようとはしたが、二人とも仏ぶっ頂ちょう面づらだった。全員がきちんとした身じまいだと認められてから、ぞろぞろと陽ひの降ふり注そそぐ裏庭うらにわに出て、客を待った。
ハリーは、こんなにきちんとした庭を見るのは初めてだった。いつもなら勝手口の階段のそばに散らばっている錆さびた大鍋おおなべや古いゴム長が消え、大きな鉢はちに植えられた真新しい「ブルブル震ふるえる木き」が一いっ対つい、裏うら口ぐちの両側に立っている。風もないのにゆっくりと葉が震え、気持のよいさざなみのような効果を上げていた。鶏にわとりは鶏とり小ご屋やに閉じ込められ、裏庭は掃はき清められている。庭木にわきは剪定せんていされ雑草も抜かれ、全体にきりっとしていた。しかし伸び放題ほうだいの庭が好きだったハリーは、いつものようにふざけ回る庭にわ小こ人びとの群れもいない庭が、何だか侘わびしげに見えた。
騎き士し団だんと魔ま法ほう省しょうが、「隠かくれ穴あな」に安全対策たいさくの呪文じゅもんを幾重いくえにも施ほどこしていた。あまりに多くて、ハリーは憶おぼえきれなくなっていたが、もはや魔法でここに直接入り込むことはできないということだけはわかっていた。そのためウィーズリーおじさんが、移動ポートキーで到着するはずのデラクール夫妻を、近くの丘の上まで迎えに出ていた。客が近づいたことは、まず異常に甲高かんだかい笑い声でわかった。その直後に門の外に現れた笑い声の主ぬしは、なんとウィーズリーおじさんだった。荷物をたくさん抱えたおじさんは、美しいブロンドの女性を案内していた。若葉色の裾すそ長ながのドレスを着た婦人は、フラーの母親に違いない。
「ママン」フラーが叫さけび声を上げて駆かけ寄り、母親を抱きしめた。「パパ」
ムッシュー・デラクールは、魅み力りょく的てきな妻にはとても及ばない容姿ようしだ。妻より頭一つ背が低く、相当豊かな体型で、先端せんたんがピンと尖とがった黒く短い顎あごひげを生やしている。しかし好人物らしい。ムッシュー・デラクールはかかとの高いブーツで弾はずむようにウィーズリーおばさんに近づき、その両頬りょうほおに交互に二回ずつキスをしておばさんをあわてさせた。