「たいへーんなご苦労をおかけしまーして」深みのある声でムッシューが言った。「フラーが、あなたはとてもアハードに準備じゅんびしているとあはなしてくれまーした」
「いいえ、何でもありませんのよ、何でも」ウィーズリーおばさんが、声を上ずらせてコロコロと答えた。「ちっとも苦労なんかじゃありませんわ」
ロンは、真新しい鉢植はちうえの陰から顔を覗のぞかせた庭小人に蹴けりを入れて、鬱憤うっぷんを晴らした。
「奥さん」ムッシュー・デラクールは丸々とした両手でウィーズリーおばさんの手を挟はさんだまま、にっこり笑いかけた。「私たち、両家が結ばれる日いが近づーいて、とても光栄でーすね。妻を紹介しょうかいさせてくーださい。アポリーヌです」
マダム・デラクールがすいーっと進み出て身を屈かがめ、またウィーズリーおばさんの頬にキスをした。
「アはンじシめャまンしテて」マダムが挨拶あいさつした。「あなたのアハズバンドが、とてもおもしろーいあはなしを聞かせてくれましたのよ」
ウィーズリーおじさんが普通とは思えない笑い声を上げたが、おばさんのひとにらみがそちらに向かって飛んだとたん、おじさんは静かになり、病気の友人の枕許まくらもとを見舞うにふさわしい表情に変わった。
「それと、もちろんお会いになったことがありまーすね。私のおちーびちゃんのガブリエール」ムッシューが紹介しょうかいした。
ガブリエールはフラーのミニチュア版だった。腰まで伸びた雑まじり気けのないプラチナ・ブロンドの十一歳は、ウィーズリーおばさんに輝かがやくような笑顔を見せて抱きつき、ハリーには睫毛まつげをパチパチさせて燃えるような眼差まなざしを送った。ジニーが大きな咳払せきばらいをした。
「さあ、どうぞ、お入りください」
ウィーズリーおばさんが朗ほがらかにデラクール一家を招しょうじ入れた。「いえいえ、どうぞ」「どうぞお先に」「どうぞご遠慮えんりょなく」がさんざん言い交かわされた。
デラクール一家は、とても気持のよい、協力的な客だということがまもなくわかった。何でも喜んでくれたし、結婚式の準備じゅんびを手伝いたがった。ムッシューは席せき次じ表ひょうから花嫁付添つきそい人用の靴くつまで、あらゆるものに「シすャばルらマしンい」を連発したし、マダムは家事に関する呪文じゅもんに熟達じゅくたつしていて、あっという間にオーブンをきれいさっぱりと掃除そうじした。ガブリエールは何でもいいから手伝おうと姉に従ついて回り、早口のフランス語でしゃべり続けていた。