夜明けのひんやりとした青い光の中、彼は山道を歩いていた。ずっと下のほうに、霞かすみに包まれた影絵かげえのような小さな町が見えた。求める男はあそこにいるのか どうしてもあの男が必要だ。ほかのことはほとんど何も考えられないくらい、彼はその男を強く求めていた。その男が答えを持っている。彼の抱える問題の答えを……。
「おい、起きろ」
ハリーは目を開けた。相変わらずむさくるしいロンの屋や根ね裏うら部べ屋やのキャンプベッドに横たわっていた。太陽が昇る前で、部屋はまだ薄うす暗ぐらかった。ピッグウィジョンが小さな翼つばさに頭を埋うずめて眠っている。ハリーの額ひたいの傷きず痕あとがチクチク痛んだ。
「うわごと言ってたぞ」
「そうか」
「ああ、『グレゴロビッチ』だったな。『グレゴロビッチ』って繰くり返してた」
まだメガネを掛かけていないせいで、ロンの顔が少しぼやけて見えた。
「グレゴロビッチって誰だ」
「僕が知るわけないだろ そう言ってたのは君だぜ」
ハリーは考えながら額ひたいを擦こすった。ぼんやりと、どこかでその名を聞いたことがあるような気がする。しかし、どこだったかは思い出せない。
「ヴォルデモートがその人を探していると思う」
「そりゃ気の毒なやつだな」ロンがひどく同情した。
ハリーは傷痕を擦り続けながら、はっきり目を覚ましてベッドに座り直した。夢で見たものを正確に思い出そうとしたが、頭に残っているのは山の稜線りょうせんと、深い谷に抱かれた小さな村だけだった。
「外国にいるらしい」
「誰が グレゴロビッチか」
「ヴォルデモートだよ。あいつはどこか外国にいて、グレゴロビッチを探している。イギリスのどこかみたいじゃなかった」
「また、あいつの心を覗のぞいてたっていうのか」
ロンは心配そうな口調だった。
「頼むから、ハーマイオニーには言うなよ」ハリーが言った。「もっとも、ハーマイオニーに夢で何か見るなって言われても、できない相談だけど……」
ハリーは、ピッグウィジョンの小さな鳥とり籠かごを見つめながら考えた……グレゴロビッチという名前に聞き覚えがあるのは、なぜだろう