「おっと」ロンが当てつけがましく言った。「ごめんよ」
「ロン」すぐ後ろに、ハーマイオニーが少し息を切らして立っていた。
ピリピリした沈ちん黙もくが過ぎ、ジニーが感情のこもらない小さい声で言った。
「えーと、ハリー、とにかくお誕たん生じょう日びおめでとう」
ロンの耳は真っ赤だった。ハーマイオニーは心配そうな顔だ。ハリーは二人の鼻先でドアをピシャリと閉めてやりたかった。しかし、ドアが開いたときに冷たい風が吹き込んできたかのように、輝かがやかしい瞬間しゅんかんは泡あわのごとく弾はじけてしまっていた。ジニーとの関係を終わりにし、近づかないようにしなければならない。そのすべての理由が、ロンと一いっ緒しょに部屋にそっと忍び込んできたような気がした。すべてを忘れる、幸せな時間は去ってしまった。
ハリーは何か言いたくてジニーを見たが、何が言いたいのかわからなかった。しかしジニーはハリーに背を向けた。ハリーは、ジニーがこのときだけは涙に負けてしまったのではないかと思った。しかし、ロンの前では、ジニーを慰なぐさめる何ものもしてやれなかった。
「またあとでね」ハリーはそう言うと、二人に従ついて部屋を出た。
ロンはどんどん先に下り、混み合った台所を通り抜けて裏うら庭にわに出た。ハリーもずっと歩調を合わせて従ついていった。ハーマイオニーは怯おびえた顔で、小走りにそのあとに続いた。
刈ったばかりの芝生の片かた隅すみまで来ると、ロンが振ふり向いてハリーを見た。
「君はジニーを捨てたんだ。もてあそぶなんて、いまになってどういうつもりだ」
「僕、ジニーをもてあそんでなんか、いない」ハリーが言った。
ハーマイオニーがやっと二人に追いついた。
「ロン――」
しかしロンは片手を挙あげて、ハーマイオニーを黙だまらせた。
「君のほうから終わりにしたとき、ジニーはずたずただったんだ」
「僕だって。なぜ僕がそうしたか、君にはわかっているはずだ。そうしたかったわけじゃないんだ」
「ああ、だけど、いまあいつとキスしたりすれば、また希望を持ってしまうじゃないか――」
「ジニーはばかじゃない。そんなことが起こらないのはわかっている。ジニーは期待していないよ、僕たちが結局――結婚するとか、それとも――」
そう言ったとたん、ハリーの頭に鮮せん烈れつなイメージが浮かんだ。ジニーが白いドレスを着て、どこの誰とも知れない背の高い、顔のない不ふ愉ゆ快かいな男と結婚する姿だ。想おもいが高まった瞬間しゅんかん、ハリーははっと気づいた。ジニーの未来は自由で何の束そく縛ばくもない。一方自分の前には……ヴォルデモートしか見えない。
「これからも何だかんだとジニーに近づくっていうなら――」
「もう二度とあんなことは起こらないよ」ハリーは厳きびしい口調で言った。
雲一つない天気なのに、ハリーは突然太陽が消えてしまったような気がした。
「それでいいか」