「ダンブルドアは、何千人という生徒を教えたはずだ」スクリムジョールはなおも食い下がった。「にもかかわらず、遺言書で遺贈されたのは、君たち三人だけだ。なぜだ ミスター・ウィーズリー、ダンブルドアは、この『灯消しライター』を君がどのように使用すると考えたのかね」
「灯ひを消すため、だと思うけど」ロンがつぶやいた。「ほかに何に使えるっていうわけ」
スクリムジョールは当然、何も意見はないようだった。しばらくの間、探るような目でロンを見ていたが、やがてまたダンブルドアの遺言書に視線を戻した。
「『ミス・ハーマイオニー・ジーン・グレンジャーに、わしの蔵ぞう書しょから〝吟ぎん遊ゆう詩し人じんビードルの物語〟を遺贈する。読んでおもしろく、役に立つ物であることを望む』」
スクリムジョールは、巾着から小さな本を取り出した。上の階に置いてある「深い闇やみの秘ひ術じゅつ」と同じくらい古い本のように見えた。表紙は汚よごれ、あちこち革かわがめくれている。ハーマイオニーは黙だまって本を受け取り、膝ひざに載のせてじっと見つめた。ハリーは、本の題がルーン文字で書かれているのを見た。ハリーが勉強したことのない記号文字だ。ハリーが見つめていると、表紙に型押かたおしされた記号に、涙が一ひと粒つぶ落ちるのが見えた。
「ミス・グレンジャー、ダンブルドアは、なぜ君にこの本を遺したと思うかね」
「せ……先生は、私が本好きなことをご存知ぞんじでした」
ハーマイオニーは袖そでで目を拭ぬぐいながら、声を詰まらせた。
「しかし、なぜこの本を」
「わかりません。私が読んで楽しいだろうと思われたのでしょう」
「ダンブルドアと、暗号について、または秘密の伝言を渡す方法について、話し合ったことがあるかね」
「ありません」ハーマイオニーは、袖そでで目を拭ぬぐい続けていた。「それに、魔法省が三十一日かけても、この本に隠された暗号が解とけなかったのなら、私に解けるとは思いません」
ハーマイオニーは、すすり泣きを押し殺した。身動きできないほどぎゅうぎゅう詰めで座っていたので、ロンは、片腕を抜き出してハーマイオニーの両肩に腕を回すのに苦労した。スクリムジョールは、また遺ゆい言ごん書しょに目を落とした。
「『ハリー・ジェームズ・ポッターに』」スクリムジョールが読み上げると、ハリーは急に興こう奮ふんを感じ、腸はらわたがぎゅっと縮まるような気がした。「『スニッチを遺贈いぞうする。ホグワーツでの最初のクィディッチ試合で、本人が捕まえたものである。忍耐にんたいと技わざは報むくいられるものである。そのことを思い出すためのよすがとして、これを贈る』」