「何も言わんようだな」スクリムジョールが言った。「たぶんもう、スニッチの中身を知っているのではないかな」
「いいえ」
ハリーは、スニッチに触れずに触れたように見せるには、どうしたらいいかを考え続けていた。「開かい心しん術じゅつ」ができたら――本当にできたら、そしてハーマイオニーの考えが読めたらいいのに。隣となりで、ハーマイオニーの脳が激はげしくうなりを上げているのが聞こえるようだった。
「受け取れ」スクリムジョールが低い声で言った。
ハリーは大臣の黄色い目を見た。そして、従うしかないと思った。ハリーは手を出し、スクリムジョールは再び前まえ屈かがみになって、ゆっくりと慎重しんちょうに、スニッチをハリーの手のひらに載のせた。
何事も起こらなかった。ハリーは指を折り曲げてスニッチを握にぎったが、スニッチは疲れた羽をひらひらさせてじっとしていた。スクリムジョールも、ロンとハーマイオニーも、スニッチが何らかの方法で変身することをまだ期待しているのか、半分手に隠れてしまった球たまを食い入るように見つめ続けていた。
「劇げき的てき瞬しゅん間かんだった」ハリーが冷れい静せいに言った。ロンとハーマイオニーが笑った。
「これでおしまいですね」
ハーマイオニーが、ソファのぎゅうぎゅう詰めから抜け出そうとしながら聞いた。
「いや、まだだ」
いまや不ふ機き嫌げんな顔のスクリムジョールが言った。
「ポッター、ダンブルドアは、君にもう一つ形見かたみを遺のこした」
「何ですか」興こう奮ふんにまた火が点ついた。
スクリムジョールは、もう遺ゆい言ごん書しょを読もうともしなかった。
「ゴドリック・グリフィンドールの剣つるぎだ」
ハーマイオニーもロンも身を硬かたくした。ハリーは、ルビーをちりばめた柄つかの剣がどこかに見えはしないかと、あたりを見回した。しかし、スクリムジョールは革かわの巾着きんちゃくから剣つるぎを取り出しはしなかったし、巾着はいずれにしても剣を入れるには小さすぎた。
「それで、どこにあるんですか」ハリーが疑わしげに聞いた。
「残念だが」スクリムジョールが言った。「あの剣は、ダンブルドアが譲り渡せるものではない。ゴドリック・グリフィンドールの剣は、重要な歴史的財産ざいさんであり、それゆえその所しょ属ぞく先さきは――」
「ハリーです」ハーマイオニーが熱く叫さけんだ。「剣はハリーを選びました。ハリーが見つけ出した剣です。『組分くみわけ帽子ぼうし』の中からハリーの前に現れたもので――」
「信しん頼らいできる歴史的文ぶん献けんによれば、剣は、それにふさわしいグリフィンドール生の前に現れると言う」スクリムジョールが言った。「とすれば、ダンブルドアがどう決めようと、ポッターだけの専せん有ゆう財ざい産さんではない」スクリムジョールは、剃そり残したひげがまばらに残る頬ほおをかきながら、ハリーを詮せん索さくするように見た。「君はどう思うかね なぜ――」
「なぜダンブルドアが、僕に剣を遺のこしたかったかですか」
ハリーは、やっとのことで癇癪かんしゃくを抑えつけながら言った。
「僕の部屋の壁かべに掛かけると、きれいだと思ったんじゃないですか」