「冗じょう談だん事ごとではないぞ、ポッター」スクリムジョールが凄すごんだ。「ゴドリック・グリフィンドールの剣のみが、スリザリンの継けい承しょう者しゃを打ち負かすことができると、ダンブルドアが考えたからではないのか ポッター、君にあの剣を遺したかったのは、ダンブルドアが、そしてほかの多くの者もそうだが、君こそ『名前を言ってはいけないあの人』を滅ほろぼす運命にある者だと、信じたからではないのか」
「おもしろい理論ですね」ハリーが言った。「誰か、ヴォルデモートに剣を刺さしてみたことがあるんですか 魔ま法ほう省しょうで何人かを、その任務にんむに就つけるべきじゃないんですか 『灯ひ消けしライター』をひねくり回したり、アズカバンからの集団脱走だっそうを隠いん蔽ぺいしたりする暇ひまがあるのなら。それじゃ大臣、あなたは、部屋にこもって何をしていたのかと思えば、スニッチを開けようとしていたのですか たくさんの人が死んでいるというのに。僕もその一人になりかけた。ヴォルデモートが州を三つも跨またいで僕を追つい跡せきしてきたことにも、マッド‐アイ・ムーディを殺したことにも、どれに関しても、魔法省からは一言もない。そうでしょう それなのにまだ、僕たちが協力すると思っているなんて」
「言葉がすぎるぞ」
スクリムジョールが立ち上がって大声を出した。ハリーもさっと立ち上がった。スクリムジョールは足を引きずってハリーに近づき、杖つえの先で強くハリーの胸を突いた。火の点ついたタバコを押しつけられたように、ハリーのシャツが焦こげて穴があいた。
「おい」
ロンがぱっと立ち上がって、杖を上げた。しかしハリーが制した。
「やめろ 僕たちを逮捕たいほする口実を与えたいのか」
「ここは学校じゃない、ということを思い出したかね」スクリムジョールは、ハリーの顔に荒い息を吹きかけた。「私が、君の傲ごう慢まんさも不ふ服ふく従じゅうをも許してきたダンブルドアではないということを、思い出したかね ポッター。その傷きず痕あとを王おう冠かんのように被かぶっているのはいい。しかし、十七歳の青あお二に才さいが、私の仕事に口出しするのはお門かど違ちがいだ そろそろ敬意というものを学ぶべきだ」
「そろそろあなたが、それを勝ち取るべきです」ハリーが言った。
床が振しん動どうした。誰かが走ってくる足音がして居間のドアが勢いよく開き、ウィーズリー夫妻が駆かけ込んできた。
「何か――何か聞こえたような気が――」ハリーと大臣がほとんど鼻突はなつき合わせて立っているのを見て、すっかり仰天ぎょうてんしたウィーズリーおじさんが言った。
「――大声を上げているような」ウィーズリーおばさんが、息を弾はずませながら言った。
スクリムジョールは二、三歩ハリーから離はなれ、ハリーのシャツにあけた穴をちらりと見た。癇癪かんしゃくを抑えきれなかったことを、悔くいているようだった。