「どういうこと」ハーマイオニーが聞いた。
「生まれて初めてのクィディッチ試合で、僕が捕まえたスニッチとは」ハリーが言った。「覚えてないか」
ハーマイオニーはまったく困こん惑わくした様子だったが、ロンはハッと息を呑のみ、声も出ないほど興奮こうふんしてハリーとスニッチを交互に指差し、しばらく声も出なかった。
「それ、君が危あやうく飲み込みかけたやつだ」
「正解」
心臓をドキドキさせながら、ハリーはスニッチを口に押し込んだ。
開かない。焦しょう燥そう感かんと苦にがい失しつ望ぼう感かんが込み上げてきた。ハリーは金こん色じきの球たまを取り出した。しかし、そのときハーマイオニーが叫さけんだ。
「文字よ 何か書いてある。早く、見て」
ハリーは驚きと興こう奮ふんでスニッチを落とすところだった。ハーマイオニーの言うとおりだった。滑なめらかな金こん色じきの球面の、さっきまでは何もなかったところに、短い言葉が刻きざまれている。ハリーにはそれとわかる、ダンブルドアの細い斜ななめの文字だ。
私は 終わる とき に 開く
ハリーが読むか読まないうちに、文字は再び消えてなくなった。
「『私は終わるときに開く』……どういう意味だ」
ハーマイオニーもロンも、ぽかんとして頭を振ふった。
「私は終わるときに開く……終わるときに……私は終わるときに開く……」
三人で何度その言葉を繰くり返しても、どんなにいろいろな抑よく揚ようをつけてみても、その言葉から何の意味もひねり出すことはできなかった。
「それに、剣つるぎだ」
三人とも、文字の意味を言い当てるのをあきらめてしまったあとで、ロンが言った。
「ダンブルドアは、どうしてハリーに剣を持たせたかったんだろう」
「それに、どうして僕に、ちょっと話してくれなかったんだろう」ハリーがつぶやくように言った。「剣はあそこにあったんだ。一年間、僕とダンブルドアが話している間、剣はあの校長室の壁かべにずっと掛かかっていたんだ 剣を僕にくれるつもりだったのなら、どうしてそのときにくれなかったんだろう」
ハリーは、試験を受けているような気がした。答えられるはずの問題を前にしているのに、脳みそは鈍にぶく、反応しない。ダンブルドアとの一年間、何度も長い話をした中で、何か聞き落としたことがあったのだろうか この謎なぞのすべての意味を、ハリーはわかっているべきなのだろうか ダンブルドアは、ハリーが理解することを期待していたのだろうか
「それに、この本だけど」ハーマイオニーが言った。「『吟ぎん遊ゆう詩し人じんビードルの物語ものがたり』……こんな本、私、聞いたことがないわ」
「聞いたことがないって 『吟遊詩人ビードルの物語』を」ロンが信じられないという調子で言った。「冗談じょうだんのつもりか」
「違うわ」ハーマイオニーが驚いた。「それじゃ、ロン、あなたは知ってるの」
「ああ、もちろんさ」
ハリーは、急に興味を引かれて顔を上げた。ロンがハーマイオニーの読んでいない本を読んでいるなんて、前ぜん代だい未み聞もんだ。一方ロンは、二人が驚いていることに当とう惑わくした様子だった。