いちばん前の列で、ウィーズリー夫人とマダム・デラクールが二人とも小さなレースの布切れを顔に押し当てて、そっとすすり泣いていた。テントの後ろから鼻をかむトランペットのような音が聞こえ、ハグリッドがテーブルクロス大のハンカチを取り出したことを全員に知らせていた。ハーマイオニーはハリーを見てにっこりしたが、その目も涙で一杯だった。
「……されば、ここに二人を夫婦となす」
ふさふさした髪の魔法使いは、ビルとフラーの頭上に杖つえを高く掲かかげた。すると二人の上に銀の星が降ふり注ぎ、抱き合っている二人を、螺旋らせんを描きながら取り巻いた。フレッドとジョージの音頭おんどでみんながいっせいに拍はく手しゅすると、頭上の金色の風船が割れ、中から極ごく楽らく鳥ちょうや小さい金の鈴が飛び出して宙ちゅうに浮かび、鳥の歌声や鈴の音ねが祝福の賑にぎわいをいっそう華はなやかにした。
「お集まりの紳士しんし、淑女しゅくじょのみなさま」ふさふさ髪がみの魔法使いが呼びかけた。「ではご起立願います」
全員が起立した。ミュリエルおばさんは、聞こえよがしに不平を言いながら立った。ふさふさ髪の魔法使いが杖つえを振ふると、いままで座っていた椅い子すが優雅ゆうがに宙ちゅうに舞い上がり、テントの壁かべの部分が消えて、一同は金色の支柱に支えられた天てん蓋がいの下にいた。太陽を浴びた果か樹じゅ園えんと、その周囲のすばらしい田でん園えんが見えた。次にテントの中心から熔とけた金が流れ出し、輝かがやくダンスフロアができた。浮かんでいた椅子が、白いテーブルクロスを掛かけたいくつもの小さなテーブルを囲んで何脚なんきゃくかずつ集まり、みんな一いっ緒しょに優雅ゆうがに地上に戻ってきてダンスフロアの周りに収まった。すると金色の上着を着たバンドマンが、ぞろぞろと舞台ぶたいに上がった。
「うまいもんだ」ロンが感心したように言った。ウェイターが銀の盆ぼんを掲かかげて四方八方から現れた。かぼちゃジュースやバタービール、ファイア・ウィスキーなどが載のった盆もあれば、山盛やまもりのタルトやサンドイッチがぐらぐら揺ゆれているのもあった。
「お祝いを言いに行かなきゃ」ビルとフラーが祝い客に取り囲まれて姿が見えなくなったあたりを爪つま先さき立だちして見ながら、ハーマイオニーが言った。
「あとで時間があるだろ」ロンは肩をすくめ、通り過ぎる盆から素早くバタービールを三本かすめて、一本をハリーに渡しながら言った。「ハーマイオニー、取れよ。テーブルを確保しようぜ……そこじゃない ミュリエルに近づくな――」
ロンは先に立って、左右をちらちら見ながら誰もいないダンスフロアを横切った。クラムに目を光らせているに違いない、とハリーは思った。テントの反対側まで来てしまったが、大部分のテーブルは埋まっていた。ルーナが一人で座っているテーブルが、いちばん空すいていた。