「あれが娘だよ」ハリーは、まだ一人で踊おどっているルーナを指差した。ルーナはユスリカを追い払うような手つきで、両腕を頭の周りで振ふり回していた。
「なぜ、あんなことをしている」クラムが聞いた。
「ラックスパートを、追い払おうとしているんじゃないかな」
ラックスパートの症しょう状じょうがどういうものかを知っているハリーは、そう言った。
クラムはハリーにからかわれているのかどうか、判はん断だんしかねている顔だった。ローブから取り出した杖つえで、クラムは脅すように自分の太ももをトントンと叩たたいた。杖つえ先さきから火花が飛び散った。
「グレゴロビッチ」ハリーは大声を上げた。
クラムがびくっとしたが、興こう奮ふんしたハリーは気にしなかった。クラムの杖を見たとたん記憶きおくが戻ってきた。三校対たい抗こう試合の前に、その杖を手に取って丹たん念ねんに調べたオリバンダーの記憶だ。
「グレゴロヴィッチがどうかしたか」クラムが訝いぶかしげに聞いた。
「杖つえ作つくりだ」
「そんなことは知っている」クラムが言った。
「グレゴロビッチが、君の杖を作った だから僕は連れん想そうしたんだ――クィディッチって……」
クラムは、ますます訝しげな顔をした。
「グレゴロヴィッチがヴぉくの杖を作ったと、どうして知っている」
「僕……僕、どこかで読んだ、と思う」ハリーが言った。「ファン――ファンの雑誌か何かで」ハリーはとっさにでっち上げたが、クラムは納なっ得とくしたようだった。
「ファンと、杖つえのことを話したことがあるとは、ヴぉくは気がつかなかった」
「それで……あの……グレゴロビッチは、最近、どこにいるの」
クラムは怪訝けげんな顔をした。
「何年か前に引退した。ヴぉくは、グレゴロヴィッチの最後の杖を買った一人だ。最高の杖だ――もちろんヴぉくは、君たちイギリス人がオリヴァンダーを信しん頼らいしていることを知っている」
ハリーは何も言わずに、クラムと同様、ダンスに興じる人たちを見ているふりをしながら、必死で考えていた。するとヴォルデモートは、有名な杖つえ作つくりを探しているのか。それほど深く考えなくとも、ハリーにはその理由がわかった。あの晩、ヴォルデモートがハリーを空中で追つい跡せきしたときに、ハリーの杖がしたことに原因があるに違いない。柊ひいらぎと不ふ死し鳥ちょうの尾お羽ば根ねの杖が、借り物の杖を打ち負かしたのだ。そんなことはオリバンダーには、予測もできず理解もできなかったことだ。では、グレゴロビッチならわかったのだろうか オリバンダーより本当に優れているのだろうか オリバンダーの知らない杖の秘密を、グレゴロビッチは知っているのだろうか