「あんたはそう言いなさるが、エルファイアス、それなら説明してくれるかぇ。どうして一度もホグワーツに入学しなかったのかぇ」ミュリエルおばさんは、ハリーとの話に戻った。
「わたしらの時代には、スクイブはよく隠されていたものぇ。もっとも、小さな女の子を実際に家の中に軟なん禁きんして、存在しないかのように装よそおうのは極端きょくたんだがぇ――」
「はっきり言うが、そんなことは起こってはおらん」ドージが言ったが、ミュリエルおばさんはがむしゃらに押し切り、相変わらずハリーに向かってまくしたてた。
「スクイブは通常マグルの学校に送られて、マグルの社会に溶とけ込むように勧すすめられたものだぇ……魔法界になんとかして場所を見つけてやるよりは、そのほうが親切というものだぇ。魔法界では常に二流市民じゃからぇ。しかし、ケンドラ・ダンブルドアは娘をマグルの学校にやるなど、当然、夢にも考えもせなんだのぇ――」
「アリアナは繊せん細さいだったのじゃ」ドージは必死で言った。「あの子の健康状態では、どうしたって――」
「家を離はなれることさえできんほどかぇ」ミュリエルが甲かん高だかく言った。「それなのに、一度も聖せいマンゴには連れていかれなんだぇ。癒者いしゃが往おう診しんに呼ばれたこともなかったぞぇ」
「まったく、ミュリエル、そんなことはわかるはずもないのに――」
「知らぬなら教えて進しんぜようかぇ。エルファイアス、わたしのいとこのランスロットは、あの当時、聖マンゴの癒者だったのぇ。そのランスロットが、うちの家族にだけ極秘ごくひで話したがぇ。アリアナは一度も病院で診みてもらっておらん。ランスロットはどうも怪あやしいとにらんでおったぇ」
ドージは、いまにも泣き出しそうな顔だった。ミュリエルおばさんは大いに楽しんでいる様子で、指を鳴らしてまたシャンパンを要求した。ぼーっとした頭で、ハリーはダーズリー一家のハリーに対する仕打ちを思った。かつてダーズリーは、魔法使いであるという罪でハリーを閉じ込め、鍵かぎを掛かけ、人目に触ふれないようにした。ダンブルドアの妹は、逆の理由で、ハリーと同じ運命に苦しんだのだろうか 魔法が使えないために閉じ込められたのか そして、ダンブルドアは本当に、そんな妹を見殺しにして、自分の才能と優秀ゆうしゅうさを証明しょうめいするためにホグワーツに行ったのだろうか
「ところで、ケンドラのほうが先に死んだのでなけりゃ――」ミュリエルがまた話し出した。「あたしゃ、アリアナを殺したのは母親だと言うだろうがのぇ――」
「ミュリエル、何ということを」ドージがうめいた。「母親が実の娘を殺す 自分の言っていることを、よく考えなされ」
「自分の娘を何年も牢ろうに入れておける母親なら、できないことはなかろうがぇ」ミュリエルおばさんは肩をすくめた。「しかし、いまも言ったように、それでは辻つじ褄つまが合わぬ。なにせ、ケンドラがアリアナより先に死んだのぇ――死因しいんが何じゃやら、誰も定さだかには――」
「ああ、アリアナが母親を殺したに違いない」ドージは、勇ゆう敢かんにも笑い飛ばそうとした。「そうじゃろう」
「そうだぇ。アリアナは自由を求めて自じ暴ぼう自じ棄きになり、争っているうちにケンドラを殺したかもしれんぇ」ミュリエルおばさんが、考え深げに言った。「エルファイアス、否定したけりゃ、いくらでも好きなだけ首を振ふりゃぁええがぇ あんたはアリアナの葬そう式しきに列れっ席せきしとったろうがぇ」
「ああ、したとも」ドージが唇くちびるを震ふるわせながら言った。「そしてわしの知るかぎり、あれほどに悲しい出来事はほかにない。アルバスは胸が張はり裂さけるほど――」
「張り裂けたのは胸だけではないぇ。アバーフォースが葬式の最中にアルバスの鼻をへし折ったろうがぇ」