ドージが怯おびえきった顔をした。それまでも怯えた顔をしてはいたが、こんどとは比べ物にならない。ミュリエルが、ドージを刺さしたのではないかと思われるほどの顔だった。ミュリエルは高笑いしてまたシャンパンをぐい飲みし、顎あごからダラダラとこぼした。
「どうしてそれを――」ドージの声がかすれた。
「母が、バチルダ・バグショット婆ばあさんと親しかったのぇ」ミュリエルおばさんが、得とく々とくとして言った。「バチルダが母に一いち部ぶ始し終じゅうを物語っとるのを、わたしゃドアの陰で聞いてたぇ。柩ひつぎの脇わきでの喧嘩けんかよ バチルダが言うには、アバーフォースは、アリアナが死んだのはアルバスのせいだと叫さけんで、顔にパンチを食らわした。アルバスは防ふせごうともせんかったということだぇ。それだけで十分おかしいがぇ。アルバスなら両手を後手うしろでに縛しばられとっても、決けっ闘とうでアバーフォースを打ち負かすことができたろうに」
ミュリエルは、またシャンパンをぐいと飲んだ。古い醜聞しゅうぶんを語ることがミュリエルを高こう揚ようさせ、それと同じぐらいドージを怯えさせているようだった。ハリーは何をどう考えてよいやら、何を信じてよいやらわからなくなった。真実がほしかった。なのにドージは、そこに座ったまま、アリアナが病気だったと弱々しく泣き言を言うばかりだった。自分の家でそんな残ざん酷こくなことが行われていたのなら、ダンブルドアが干渉かんしょうしなかったはずはない、とハリーは思った。にもかかわらず、この話にはたしかに何か奇妙きみょうなところがある。
「それに、まだ話すことがあるがぇ」ミュリエルはゴブレットを下に置き、しゃっくり混じりに言った。「わたしゃ、バチルダがリータ・スキーターに秘密を漏もらしたと思うがぇ。スキーターのインタビューで仄ほのめかしていた、ダンブルドア一家に近い重要な情じょう報ほう源げん――バチルダがアリアナの一いっ件けんをずっと見てきたことは間違いないぇ。それで辻褄が合うが」
「バチルダは、リータ・スキーターなんかに話しはせん」ドージが囁ささやくように言った。
「バチルダ・バグショット」ハリーが言った。「『魔ま法ほう史し』の著ちょ者しゃの」
その名は、ハリーの教科書の表に印刷されていた。もっとも、ハリーがいちばん熱心に読んだ教科書とは言えない。
「そうじゃ」ドージはハリーの質問に、溺おぼれる者が藁わらにすがるようにしがみついた。「魔法史家として最も優れた一人で、アルバスの古くからの友人じゃ」
「このごろじゃ、相当衰おとろえとると聞いたぇ」ミュリエルおばさんが楽しそうに言った。
「もしそうなら、スキーターがそれを利用したのは、恥はじの上塗うわぬりというものじゃ」ドージが言った。「そしてバチルダが語ったであろうことは、何一つ信しん頼らいできん」
「ああ、記憶きおくを呼び覚ます方法はあるし、リータ・スキーターはきっと、そういう方法をすべて心得こころえておると思うぇ」ミュリエルおばさんが言った。「しかし、たとえバチルダが完全に老いぼれとるとしても、間違いなくまだ古い写真は持っとるぇ。おそらく手紙も。バチルダはダンブルドアたちと長年つき合いがあったのだぇ……まあ、ゴドリックの谷まで足を運ぶ価値があった、と、あたしゃそう思うぇ」