バタービールをちびちび飲んでいたハリーは、咽むせ返った。涙目でミュリエルを見ながら咳せき込むハリーの背中を、ドージがバンバン叩たたいた。なんとか声が出るようになったところで、ハリーはすぐさま聞いた。
「バチルダ・バグショットは、ゴドリックの谷に住んでるの」
「ああ、そうさね。バチルダは永久にあそこに住んでいるがぇ ダンブルドア一家は、パーシバルが投とう獄ごくされてから引っ越してきて、バチルダはその近所に住んでおったがぇ」
「ダンブルドアの家族も、ゴドリックの谷に住んでいたんですか」
「そうさ、バリー、わたしゃ、たったいまそう言ったがぇ」
ミュリエルおばさんが焦じれったそうに言った。
ハリーはすっかり力が抜け、頭の中が空からっぽになった。この六年間、ダンブルドアはただの一度も、ハリーにそのことを話さなかった。自分たちが二人ともゴドリックの谷に住んだことがあり、二人とも愛する人をそこで失ったことを。なぜだ リリーとジェームズは、ダンブルドアの母親と妹の近くに眠っているのだろうか ダンブルドアは身内の墓を訪たずねたことがあるのだろうか そのときに、リリーとジェームズの墓のそばを歩いたのではないだろうか それなのに、一度もハリーに話さなかった……話そうともしなかった……。
しかし、それがどうして大切なことなのか、ハリーは自分自身にも説明がつかなかった。にもかかわらず、ゴドリックの谷という同じ場所を、そしてそのような経験を共有していたということをハリーに話さなかったのは、ダンブルドアが嘘うそをついていたにも等しいような気がした。ハリーは、いまどういう場所にいるのかもほとんど忘れて、前を見つめたきりだった。ハーマイオニーが混雑から抜け出してきたことも、ハリーの横に椅い子すを持ってきて座るまで気づかなかった。
「もうこれ以上は踊おどれないわ」靴くつを片方脱ぬぎ、足の裏うらをさすりながら、ハーマイオニーが息を切らせて言った。「ロンはバタービールを探しにいったわ。ちょっと変なんだけど、私、ビクトールがすごい剣けん幕まくでルーナのお父さんから離はなれていくところを見たの。何だか議論していたみたいだったけど――」ハーマイオニーはハリーを見つめて声を落とした。
「ハリー、あなた、大丈夫」
ハリーは、どこから話を始めていいのかわからなかった。しかし、そんなことはどうでもよくなってしまった。その瞬間しゅんかん、何か大きくて銀色のものがダンスフロアの上の天てん蓋がいを突き破やぶって落ちてきたのだ。優雅ゆうがに光りながら、驚くダンス客の真ん中に、オオヤマネコがひらりと着地した。何人かがオオヤマネコに振ふり向いた。すぐ近くの客は、ダンスの格かっ好こうのまま、滑こっ稽けいな姿でその場に凍こおりついた。すると守しゅ護ご霊れいの口がくゎっと開き、大きな深い声がゆっくりと話し出した。キングズリー・シャックルボルトの声だ。
「魔ま法ほう省しょうは陥かん落らくした。スクリムジョールは死んだ。連中が、そっちに向かっている」