「後こう学がくのために聞くけど、どうしてトテナム・コート通りなの」
ロンがハーマイオニーに聞いた。
「わからないわ。ふと思いついただけ。でも、マグルの世界にいたほうが安全だと思うの。死し喰くい人びとは、私たちがこんなところにいるとは思わないでしょうから」
「そうだな」ロンはあたりを見回しながら言った。「だけど、ちょっと――むき出しすぎないか」
「ほかにどこがあるって言うの」道の反対側で自分に向かって冷やかしの口くち笛ぶえを吹きはじめた男たちに眉まゆをひそめながら、ハーマイオニーが言った。「『漏もれ鍋なべ』の部屋の予約なんか、とてもできないでしょう それにグリモールド・プレイスは、スネイプが入れるからアウトだし……。私の家という手もないことはないけど、連中がそこを調べにくる可能性もあると思うわ……ああ、あの人たちいやだわ、黙だまってくれないかしら」
「よう、ねえちゃん」道の反対側で、いちばん泥でい酔すいした男が大声で言った。「一杯飲まねえか 赤毛なんか振ふっちまって、こっちで一いっ緒しょに飲もうぜ」
「どこかに座りましょう」ロンが怒ど鳴なり返そうと口を開いたので、ハーマイオニーがあわてて言った。「ほら、ここがいいわ。さあ」
小さなみすぼらしい二十四時間営業のカフェだった。プラスチックのテーブルはどれも、うっすらと油汚あぶらよごれがついていたが、客がいないのがよかった。ボックス型のベンチ席に、ハリーが最初に入り込み、ロンがその隣となりに座った。向かいの席のハーマイオニーは、入口に背を向けて座るのが気になるらしく、しょっちゅう背後を振り返って、まるで痙けい攣れんを起こしているかのようだった。ハリーはじっとしていたくなかった。歩いている間は、錯さっ覚かくでもゴールに向かっているような気でいられた。透とう明めいマントの下で、ハリーは、ポリジュース薬の効きき目が切れてきたのを感じた。両手が元の長さと形を取り戻しつつあった。ハリーは、ポケットからメガネを取り出して掛かけた。
「あのさ、ここから『漏れ鍋』まで、そう遠くはないぜ。あれはチャリング・クロスにあるから――」間もなくしてロンが言った。
「ロン、できないわ」ハーマイオニーが即座そくざに撥はねつけた。
「泊とまるんじゃなくて、何が起こっているかを知るためだよ」
「どうなっているかはわかっているわ ヴォルデモートが魔ま法ほう省しょうを乗っ取ったのよ。ほかに何を知る必要があるの」
「オッケー、オッケー。ちょっとそう思っただけさ」