そして次に、ハリーはもう一度校長室に立っていた。夜だった。ダンブルドアは、机の後ろの王座のような椅い子すに、斜めにぐったりもたれていた。どうやら半分気を失っている。黒く焼け焦こげた右手が、椅子の横にだらりと垂れている。スネイプは、杖つえをダンブルドアの手首に向けて呪じゅ文もんを唱となえながら、左手で金色の濃こい薬をなみなみと満たしたゴブレットを傾け、ダンブルドアの喉のどに流し込んでいた。やがてダンブルドアの瞼まぶたがひくひく動き、目が開いた。
「なぜ」スネイプは前置きもなしに言った。
「なぜその指輪をはめたのです それには呪のろいがかかっている。当然ご存知ぞんじだったでしょう。なぜ触ふれたりしたのですか」
マールヴォロ・ゴーントの指輪が、ダンブルドアの前の机に載のっていた。割れている。グリフィンドールの剣つるぎがその脇わきに置いてあった。
ダンブルドアは、顔をしかめた。
「わしは……愚おろかじゃった。いたく、そそられてしもうた……」
「何に、そそられたのです」
ダンブルドアは答えなかった。
「ここまで戻ってこられたのは、奇跡きせきです」
スネイプは怒ったように言った。
「その指輪には、異常に強力な呪いがかかっていた。うまくいっても、せいぜいその力を封ふうじ込めることしかできません。呪いを片方の手に押さえ込みました。しばしの間だけ――」
ダンブルドアは黒ずんで使えなくなった手を挙げ、めずらしい骨こっ董とう品ひんを見せられたような表情で、矯ためつ眇すがめつ眺ながめていた。
「よくやってくれた、セブルス。わしはあとどのくらいかのう」
ダンブルドアの口調は、ごく当たり前の話をしているようだった。天気予報でも聞いているような調子だった。スネイプは躊躇ちゅうちょしたが、やがて答えた。
「はっきりとはわかりません。おそらく一年。これほどの呪いを永久にとどめておくことはできません。結局は、広がるでしょう。時間とともに強力になる種類の呪じゅ文もんです」
ダンブルドアは微笑ほほえんだ。あと一年も生きられないという報しらせも、ほとんど、いや、まったく気にならないかのようだった。