「わしは幸運じゃ。セブルス、きみがいてくれて、わしは非常に幸運じゃ」
「私をもう少し早く呼んでくださったら、もっと何かできたものを。もっと時間を延のばせたのに」
スネイプは憤慨ふんがいしながら、割れた指輪と剣を見下ろした。
「指輪を割れば、呪のろいも破れると思ったのですか」
「そんなようなものじゃ……わしは熱に浮かされておったのじゃ、まぎれもなく……」
ダンブルドアが言った。そして力を振りしぼって、椅い子すに座り直した。
「いや、まことに、これで事はずっと単たん純じゅん明めい快かいになる」
スネイプは、完全に当とう惑わくした顔をした。ダンブルドアは微笑ほほえんだ。
「わしが言うておるのは、ヴォルデモート卿きょうがわしの周りに巡らしておる計画のことじゃ。哀あわれなマルフォイ少年に、わしを殺させるという計画じゃ」
スネイプは、ダンブルドアの机の前の椅子に腰掛こしかけた。ハリーが何度も掛けた椅子だった。ダンブルドアの呪われた手について、スネイプがもっと何か言おうとしているのがハリーにはわかったが、ダンブルドアはこの話題は打ち切るという丁てい寧ねいな断りの印に、その手を挙げた。スネイプは、顔をしかめながら言った。
「闇やみの帝てい王おうは、ドラコが成功するとは期待していません。これは、ルシウスが先ごろ失敗したことへの懲罰ちょうばつにすぎないのです。ドラコの両親は、息子が失敗し、その代償だいしょうを払うのを見てじわじわと苦しむ」
「つまり、あの子はわしと同じように、確実な死の宣せん告こくを受けているということじゃ」
ダンブルドアが言った。
「さて、わしが思うに、ドラコが失敗すれば当然その仕事を引き継ぐのは、きみじゃろう」
一瞬いっしゅん、間があいた。
「それが、闇の帝王の計画だと思います」
「ヴォルデモート卿は近い将来、ホグワーツにスパイを必要としなくなるときが来ると、そう予測しておるのかな」
「あの方は、まもなく学校を掌握しょうあくできると信じています。おっしゃるとおりです」
「そして、もし、あの者の手に落ちれば――」
ダンブルドアは、まるで余談よだんだがという口調で言った。
「きみは、全力でホグワーツの生徒たちを守ると、約束してくれるじゃろうな」
スネイプは短くうなずいた。