ハリーは「透明とうめいマント」を被かぶって順々に下の階に下り、最後に大だい理り石せきの階段を下りて玄関げんかんホールに向かった。もしかしたらどこか心の片隅かたすみで、誰かがハリーを感じ取りハリーを見て、引き止めてくれることを望んでいたのかもしれない。しかし「マント」はいつものように誰にも見通せず、完璧かんぺきで、ハリーは簡単に玄関扉とびらにたどり着いていた。
そこで、危うくネビルとぶつかりそうになった。誰かと二人で組んで、校庭から遺体いたいの一つを運び入れるところだった。遺体を見下ろしたハリーは、またしても胃袋に鈍にぶい一撃いちげきを食らったような痛みを感じた。コリン・クリービーだ。未成年なのに、マルフォイやクラッブ、ゴイルと同じように、こっそり城に戻ってきたに違いない。遺体のコリンは、とても小さかった。
「考えてみりゃ、おい、ネビル、俺おれ一人で大丈夫だよ」
オリバー・ウッドはそう言うなり、コリンの両腕と両腿りょうももを握って肩に担かつぎ上げ、大広間に向かった。
ネビルはしばらく扉の枠わくにもたれて、額ひたいの汗を手の甲で拭ぬぐった。一気に歳を取ったように見えた。それからまた石段を下り、遺体を回収しに闇やみに向かって歩き出した。
ハリーはもう一度だけ、大広間の入口をちらと振り返った。動き回る人々が見えた。互いに慰なぐさめたり、喉のどの渇かわきを潤うるおしたり、死者のそばに額衝ぬかずいたりしている。しかし、ハリーの愛する人々の姿は見えなかった。ハーマイオニーやロン、ジニーやウィーズリー家の誰の姿もまったく見当たらず、ルーナもいない。残された時間のすべてを差し出してでも、最後にその人たちを一目見たいと思った。しかし一目見てしまえば、それを見納めにする力など出てくるはずがあろうか このほうがよいのだ。
ハリーは石段を下り、暗闇くらやみに足を踏ふみ出した。朝の四時近くだった。校庭は死んだように静まり返り、ハリーが成すべきことを成し遂げられるのかどうか、息をひそめて見守っているようだった。