ハリーは呆然ぼうぜんとして、悠々ゆうゆうと歩き去るダンブルドアのあとに従った。ダンブルドアは、哀あわれっぽい声で泣いている生々しい赤子あかごをあとに、少し離れたところに置いてある椅い子すへとハリーを誘いざなった。ハリーはそれまで気づかなかったが、高く輝くドームの下に椅子が二脚置いてあった。ダンブルドアがその一つに掛かけ、ハリーは校長の顔をじっと見つめたまま、もう一つの椅子にストンと腰を落とした。長い銀色の髪かみや顎あごひげ、半月形のメガネの奥から鋭く見通すブルーの目、折れ曲がった鼻。何もかもハリーが憶おぼえているとおりだった。しかし……。
「でも、先生は死んでいる」ハリーが言った。
「おお、そうじゃよ」ダンブルドアは、当たり前のように言った。
「それなら……僕も死んでいる」
「あぁ」
ダンブルドアは、ますますにこやかに微笑ほほえんだ。
「『それが問題だ』、というわけじゃのう 全体としてみれば、ハリーよ、わしは違うと思うぞ」
二人は顔を見合わせた。老ダンブルドアは、まだ笑顔のままだ。
「違う」ハリーが繰り返した。
「違う」ダンブルドアが言った。
「でも……」
ハリーは反はん射しゃ的てきに、稲いな妻ずま形がたの傷痕きずあとに手を持っていったが、そこに傷痕はなかった。
「でも、僕は死んだはずだ――僕は防がなかった あいつに殺されるつもりだった」
「それじゃよ」ダンブルドアが言った。「それが、たぶん、大きな違いをもたらすことになったのじゃ」
ダンブルドアの顔から、光のように、炎のように、喜びがあふれ出ているようだった。こんなに手放しで、こんなにはっきり感じ取れるほど満足しきったダンブルドアを、ハリーは初めて見た。
「どういうことですか」ハリーが聞いた。
「きみにはもうわかっているはずじゃ」
ダンブルドアが、左右の親指同士をくるくる回しながら言った。
「僕は、あいつに自分を殺させた」ハリーが言った。「そうですね」
「そうじゃ」ダンブルドアがうなずいた。「続けて」
「それで、僕の中にあったあいつの魂たましいの一部は……」
ダンブルドアはますます熱くうなずき、晴れ晴れと励ますような笑顔でハリーを促うながした。
「……なくなった」
「そのとおりじゃ」ダンブルドアが言った。「そうじゃ。あの者が破壊はかいしたのじゃ。きみの魂は完全無欠で、きみだけのものじゃよ、ハリー」