「でも、それなら……」
ハリーは振り返って、椅い子すの下で震えている小さな傷きずついた生き物を一瞥いちべつした。
「先生、あれは何ですか」
「我々の救いの及ばぬものじゃよ」ダンブルドアが言った。
「でも、もしヴォルデモートが『死しの呪文じゅもん』を使ったのなら――」
ハリーは話を続けた。
「そして、こんどは誰も僕のために死んでいないのなら――僕はどうして生きているのですか」
「きみにはわかっているはずじゃ」
ダンブルドアが言った。
「振り返って考えるのじゃ。ヴォルデモートが、無知の故ゆえに、欲望と残酷ざんこくさの故に、何をしたかを思い出すのじゃ」
ハリーは考え込み、視線をゆっくり移動させて周囲をよく見た。二人の座っている場所がもしも宮殿なら、そこは奇妙きみょうな宮殿だった。椅子が数脚ずつ何列か並び、切れ切れの手すりがあちこちに見えるが、そこにいるのはやはり、ハリーとダンブルドアの二人だけで、あとは椅子の下にいる発はつ育いく不ふ良りょうの生き物だけだった。そのとき、何の苦もなく、答えがハリーの唇に上ってきた。
「あいつは、僕の血を入れた」ハリーが言った。
「まさにそうじゃ」
ダンブルドアが言った。
「あの者はきみの血を採とり、それで自分の生身の身体を再生させた あの者の血管に流れるきみの血が、ハリー、リリーの護まもりが二人の中にあるのじゃ あの者が生きているかぎり、あの者はきみの命をつなぎとめておる」
「僕が生きているのは……あいつが生きているから でも、僕……僕、その逆だと思っていた 二人とも死ななければならないと思ったけど それともどっちでも同じこと」
ハリーは、背後でもがき苦しむ泣き声と物音に気を逸そらされ、もう一度振り返った。
「本当に、僕たちにはどうにもできないのですか」
「助けることは不可能じゃ」
「それなら、説明してください……もっと詳しく」
ハリーの問いに、ダンブルドアは微笑ほほえんだ。