「きみはのう、ハリー、あの者が期せずして作ってしまった、七つ目の分ぶん霊れい箱ばこだったのじゃ。あの者は、自みずからの魂たましいを非常に不安定なものにしてしもうたので、きみのご両親を殺害し、幼子おさなごまでも殺そうという言語に絶する悪行を為なしたとき、魂が砕くだけた。あの部屋から逃れたものは、あの者が思っていたより少なかったのじゃ。あの者は、自分の肉体だけではなく、それ以上のものをあの場に置いていったのじゃ。犠牲ぎせいになるはずだったきみに、生き残ったきみに、あの者の一部が結びついて残されたのじゃ」
「しかも、ハリー、あの者の知識は、情けないほど不完全なままじゃった ヴォルデモートは、自らが価値を認めぬものに関して理解しようとはせぬ。屋敷やしきしもべ妖精ようせいやお伽噺とぎばなし、愛や忠誠ちゅうせい、そして無む垢く。ヴォルデモートはこうしたものを知らず、理解しておらぬ。まったく何も。こうしたもののすべてがヴォルデモートを凌駕りょうがする力を持ち、どのような魔法も及ばぬ力を持つという真実を、あの者は決して理解できなかった」
「ヴォルデモートは、自らを強めると信じて、きみの血を入れた。あの者の身体の中に、母君がきみを守るために命を棄すててかけた魔法が、わずかながら取り込まれた。母君の犠牲の力を、あの者が生かしておる。そして、その魔法が生き続けるかぎりきみも生き続け、ヴォルデモート自身の最後の望みである命の片鱗へんりんも生き続ける」
ダンブルドアはハリーに微笑ほほえみかけ、ハリーは目を丸くしてダンブルドアを見た。
「先生はご存知ぞんじだったのですか このことを――はじめからずっと」
「推量すいりょうしただけじゃ。しかしわしの推量は、これまでのところ、大方おおかたは正しかったのう」
ダンブルドアはうれしそうに言った。それから二人は、座ったまま長い間、黙だまっていた。長く感じただけかもしれない。背後の生き物は、相変わらずヒーヒー泣きながら震えていた。
「まだあります」
ハリーが言った。
「まだわからないことが。僕の杖つえは、どうしてあいつの借り物の杖を折ったのでしょう」
「それについては、定かにはわからぬ」
「それじゃ、推量すいりょうでいいです」
ハリーがそう言うと、ダンブルドアは声を上げて笑った。