「でも、僕の杖がそんなに強力だったのなら、どうしてハーマイオニーに折ることができたのでしょう」ハリーが聞いた。
「それはのう、杖のすばらしい威力いりょくは、ヴォルデモートに対してのみ効果があったからじゃ。魔法の法則ほうそくの深奥しんおうを、あのように無分別にいじくり回したヴォルデモートに対してのみじゃ。あの者に向けてのみ、きみの杖は異常な力を発揮はっきした。それ以外は、ほかの杖と変わることはない……もちろん、よい杖つえではあったがのう」
ダンブルドアは、優しい言葉をつけ加えた。
ハリーは長いこと考え込んだ。いや、数秒だったかもしれない。ここでは、時間などをはっきり認識するのが、とても難しかった。
「あいつは、あなたの杖で僕を殺した」
「わしの杖で、きみを殺しそこねたのじゃ」
ダンブルドアが、ハリーの言葉を訂正ていせいした。
「きみが死んでいないということで、きみとわしは意見が一致いっちすると思う――じゃが、もちろん」
ダンブルドアは、ハリーに対して礼を欠くことを恐れるかのようにつけ加えた。
「きみが苦しんだことを軽く見るつもりはない。過酷かこくな苦しみだったに違いない」
「でもいまは、とてもいい気分です」
ハリーは、清潔せいけつで傷きず一つない両手を見下ろしながら言った。
「ここはいったい、どこなのですか」
「そうじゃのう、わしがきみにそれを聞こうと思っておった」
ダンブルドアが、あたりを見回しながら言った。
「きみは、ここがどこだと思うかね」
ダンブルドアに聞かれるまで、ハリーにはわかっていなかった。しかし、いまはすぐに答えられることに気づいた。
「なんだか」
ハリーは考えながら答えた。
「キングズ・クロス駅みたいだ。でも、ずっときれいだし誰もいないし、それに、僕の見るかぎりでは、汽車が一台もない」
「キングズ・クロス駅」
ダンブルドアは、遠慮えんりょなくクスクス笑った。
「なんとまあ、そうかね」
「じゃあ、先生はどこだと思われるんですか」
ハリーは少しむきになって聞いた。
「ハリーよ、わしにはさっぱりわからぬ。これは、いわば、きみの晴れ舞台じゃ」
ハリーには、ダンブルドアが何を言っているのかわからなかった。ダンブルドアの態度が腹立たしくなってハリーは顔をしかめたが、そのとき、いまどこにいるかよりも、もっと差し迫せまった問題を思い出した。