「それで、ヴォルデモートは、秘宝のことを知らなかったのですか」
「知らなかったじゃろう。分ぶん霊れい箱ばこにした物の一つが、『蘇よみがえりの石いし』であることにも気づかなかったのじゃから。しかし、ハリー、たといあの者が秘宝のことを知っていたにせよ、最初の品以外に興味を持ったとは思えぬ。『マント』が必要だとは考えなかったろうし、石にしても、いったい誰を死から呼び戻したいと思うじゃろう ヴォルデモートは死者を恐れた。あの者は誰をも愛さぬ」
「でも先生は、ヴォルデモートが杖つえを追うと予想なさったでしょう」
「リトル・ハングルトンの墓場で、きみの杖がヴォルデモートの杖を打ち負かしたときから、わしは、あの者が杖を求めようとするに違いないと思うておった。あの者は、最初のうち、きみの腕のほうが勝っていたがために敗北したのではないかと、それを恐れておったのじゃ。しかし、オリバンダーを拉ら致ちし、双子ふたごの芯しんのことを知った。ヴォルデモートは、それですべてが説明できると思ったのじゃ。ところが借り物の杖も、きみの杖の前では同じことじゃった ヴォルデモートは、きみの杖をそれほど強力にしたのがきみの資質だと考えるのではなく、つまり、きみに備わっていて自らには欠けつ如じょしている才能が何かを問うてみるのではなく、当然ながら、すべての杖を破ると噂うわさに聞く唯ゆい一いつの杖を探しに出かけたのじゃ。ヴォルデモートにとっては、ニワトコの杖への執しゅう着ちゃくが、きみへの執着に匹ひっ敵てきするほど強いものになった。ニワトコの杖こそ、自らの最後の弱みを取り除き、真に自分を無敵にするものと信じたのじゃ。哀あわれなセブルスよ……」
「先生が、スネイプによるご自分の死を計画なさったのなら、『ニワトコの杖つえ』はスネイプに渡るようにしようと思われたのですね」
「たしかに、そのつもりじゃった」
ダンブルドアが言った。
「しかし、わしの意図どおりには運ばなかったじゃろう」
「そうですね」ハリーが言った。
「その部分はうまくいきませんでした」
背後の生き物が急にビクッと動き、うめいた。ハリーとダンブルドアは、いままででいちばん長い間、無言で座っていた。その長い時間に、ハリーには、次に何が起こるのかが、静かに降ふる雪のように徐々に読めてきた。