「僕は、帰らなければならないのですね」
「きみ次第じゃ」
「選べるのですか」
「おお、そうじゃとも」
ダンブルドアがハリーに微笑ほほえみかけた。
「ここはキングズ・クロスだと言うのじゃろう もしきみが帰らぬと決めた場合は、たぶん……そうじゃな……乗車できるじゃろう」
「それで、汽車は、僕をどこに連れていくのですか」
「先へ」
ダンブルドアは、それだけしか言わなかった。
また沈ちん黙もくが流れた。
「ヴォルデモートは、『ニワトコの杖』を手に入れました」
「さよう。ヴォルデモートは、『ニワトコの杖』を持っておる」
「それでも先生は、僕に帰ってほしいのですね」
「わしが思うには――」
ダンブルドアが言った。
「もしきみが帰ることを選ぶなら、ヴォルデモートの息の根を完全に止める可能性はある。約束はできぬがのう。しかしハリー、わしにはこれだけはわかっておる。きみが再びここに戻るときには、ヴォルデモートほどにここを恐れる理由はない」
ハリーは、離れたところにある椅い子すの下の暗がりで、震え、息を詰まらせている生々しい生き物に、もう一度目をやった。
「死者を哀あわれむではない、ハリー。生きている者を哀れむのじゃ。とくに愛なくして生きている者たちを。きみが帰ることで、傷きずつけられる人間や、引き裂さかれる家族の数を少なくすることができるかもしれぬ。それがきみにとって、価値ある目標と思えるのなら、我々はひとまず別れを告げることとしよう」
ハリーはうなずいて、ため息をついた。この場所を去ることは、「禁きんじられた森もり」に入っていったときに比べれば難しいとは言えない。しかし、ここは温かく、明るく、平和なのに、これから戻っていく先には痛みがあり、さらに多くの命が失われる恐れがあることがわかっている。ハリーは立ち上がった。ダンブルドアも腰を上げ、二人は互いに、長い間じっと見つめ合った。
「最後に、一つだけ教えてください」
ハリーが言った。
「これは現実のことなのですか それとも、全部、僕の頭の中で起こっていることなのですか」
ダンブルドアは晴れやかにハリーに笑いかけた。明るい靄もやが再び濃こくなり、ダンブルドアの姿をおぼろげにしていたが、その声はハリーの耳に大きく強く響ひびいてきた。
「もちろん、きみの頭の中で起こっていることじゃよ、ハリー。しかし、だからと言って、それが現実ではないと言えるじゃろうか」