「上に行ってもいいですか」
ハリーはガーゴイルに聞いた。
「ご自由に」
ガーゴイル像がうめいた。
三人はガーゴイルを乗り越えて、石の螺ら旋せん階かい段だんに乗り、エスカレーターのようにゆっくりと上に運ばれていった。階段のいちばん上で、ハリーは扉とびらを押し開けた。
石の「憂いの篩」が、机の上のハリーが置いた場所にあった。それを一目見たとたん、耳を劈つんざく騒音が聞こえ、ハリーは思わず叫さけび声を上げた。呪のろいをかけられたか、死し喰くい人びとが戻ってきてヴォルデモートが復活したか、と思ったのだ――。
しかしそれは、拍はく手しゅだった。周り中の壁かべで、ホグワーツの歴代校長たちが総立ちになって、ハリーに拍手していた。帽子ぼうしを振り、ある者は鬘かつらを打ち振りながら、校長たちは額がくから手を伸ばし、互いの手を強く握りしめていた。描かれた椅い子すの上で飛び跳ねて踊おどっていた。ディリス・ダーウェントは人目もはばからず泣き、デクスター・フォーテスキューは旧式のラッパ型補ほ聴ちょう器きを振り、フィニアス・ナイジェラスは、持ち前の甲かん高だかい不快な声で叫んでいた。
「それに、スリザリン寮りょうが果たした役割を、特とく筆ひつしようではないか 我らが貢こう献けんを忘れるなかれ」
しかしハリーの目は、校長の椅子のすぐ後ろに掛かかっているいちばん大きな肖しょう像ぞう画がの中に立つ、ただ一人に注がれていた。半月形のメガネの奥から、長い銀色の顎あごひげに涙が滴したたっていた。その人からあふれ出てくる誇ほこりと感謝の念は、不ふ死し鳥ちょうの歌声と同じ癒いやしの力でハリーを満たした。
やがてハリーは両手を挙げた。すると肖像画たちは敬意けいいを込めて静かになり、微笑ほほえみかけたり目を拭ぬぐったりしながら、耳を澄すましてハリーの言葉を待った。しかしハリーは、ダンブルドアだけに話しかけ、細さい心しんの注意を払って言葉を選んだ。疲れ果て、目もかすんでいたが、最後の忠告ちゅうこくを求めるために、ハリーは残る力を振りしぼった。