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世の中へ出る子供たち(1)_小川未明童話集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3394

 

一


正吉しょうきちの記憶きおくに、残のこっていることがあります。それは、小学校しょうがっこうを卒業そつぎょうする、すこし前まえのことでした。ある日ひ、日ひごろから仲なかのいい三人にんは、つれあって、受うけ持もちの田川先生たがわせんせいをお訪たずねしたのであります。先生せんせいは、まだ独身どくしんでいられました。アパートの狭せまいへやに住すんでいられて、三人にんがいくと喜よろこんで、お茶ちゃを入いれたり、お菓子かしを出だしたりして、もてなしてくださいました。
「君きみたちの卒業そつぎょうも、だんだん近ちかづいたね。もうこれまでのように、毎日まいにち顔かおを合あわせることができなくなる。小原おばらくんは、入はいる学校がっこうがきまったかね。」と、一人ひとりの方ほうを向むいて、おっしゃいました。
「はあ、兄にいさんが、中学校ちゅうがっこうへ入はいったらいいというのですけれど。」と、小原おばらは、下したを向むきました。
「君きみのお兄にいさんは、やさしい方かただ。君きみは、もっと体からだをじょうぶにせんければいけんよ。」
先生せんせいは、じっと、早はやく両親りょうしんに別わかれた小原おばらの細々ほそぼそとした体からだを見みていられました。
高橋たかはしは、早はやく父親ちちおやに別わかれたけれど、母親ははおやがあるのでした。正吉しょうきちだけは、両親りょうしんがそろっていて、いちばん幸福こうふくの身みの上うえであったのです。
外そとには、寒さむいから風かぜが吹ふいていました。ときどきガラス窓まどをガタガタと鳴ならしました。
先生せんせいは、しばらくだまっていられましたが、
「みんなは、世間せけんに名なを知しられるような、えらい人ひとになれなくともいいから、正ただしい人間にんげんとなって、どうか幸福こうふくに暮くらしてもらいたい。」といって、うつむかれたが、そのとき、目めの中なかに涙なみだが光ひかったのです。先生せんせいのお言葉ことばは、胸むねにしみて、思おもわず知しらず、三人にんは、いっしょに頭あたまを下さげました。

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