七つ道具
その時、突然、どこからとも知れず、人の声が聞えて来た。ラジオの様に、異様に響く声だ。
「探偵さん。気分はどうだね。淋しかろうと思って、一人友達を送って上げたが、お気に召したかね」
三笠氏の懐中電燈が、声する方へさし向けられると、その円光の中に、壁に仕掛けた黒い
「ヤア、有難う。なかなか気に入ったよ。君の骨折りのお蔭で、わしは相川君から、君達のやり口を、色々と聞かせて貰った。だが、君はそこで何をぐずぐずしているんだね。僕達が気になると見えるね」
それは上の書斎と、この地下室とを
地底の探偵が喇叭から顔を離すと、今度は上の贋ものの番だ。
「マア、仲よく話して居給え。君達は、僕の方の仕事が済むまで、そこから出られっこはないんだから。……それとも、その深い穴蔵から這い出す隙でもあるというのかい」
「ハハハ……、心配しなくってもいい。抜け道なんぞありゃしない。君もよく知っている通り、その上げ
「フフ……、罠にかかった猟師だね、君は。散々人を苦しめた報いだ。あきらめるがいい。じゃ、二三日我慢してくれ給え。
そして、カチンという音が響いて来た。
「通話管の蓋をしてしまった。もう少しからかってやろうと思ったのに」
老探偵は舌うちをして、喇叭の
「だが、いいんですか、先生。あいつは僕達をここへ閉籠めて置いて、その間に妹をどうかするに極まっています。ここからは本当に出られないのですか。若しや敵の裏をかくカラクリ仕掛けがあるんじゃありませんか」
守は曲者の声が聞えなくなると、
「そんな仕掛けなんかありゃしない。今あいつに云った事はみんな本当だよ」
三笠氏はいやに落ちついている。そういう折には、ふとこの探偵が、
「じゃ、僕達はこのままじっとして、奴等の
「イヤ、そんなに
老探偵は云いながら、ポケットから、小型のハンドバッグかと思われる革製の容器を取り出して、円光の中に拡げて見せた。
そこには七つどころではない、二十種に余る種々様々の形をした、非常に小型な、小人島の道具類が、出来るだけ
金庫破りの名人が持っている様な万能鍵束、小型だけれど倍率の大きい虫眼鏡、黒い絹糸を
「これをごらん。何だと思うね。わしの魔法の
老探偵が取上げて示したのは、長さ二寸程のピカピカ光る金属の円筒であった。
「これと繩梯子があれば、こんな穴蔵なぞ、抜け出すのは訳もないことだ。探偵も時には手品師の真似をしなければならない。わしはこれで、奇術師に弟子入りしたこともあるのだよ」
守青年は、三笠氏の手から、万年筆程の小型懐中電燈を受取って、穴蔵の壁から天井を照らして見た。
天井までは二
三笠探偵の手品とは一体どの様なことであろう。又、この小さな円筒形の金属が、穴蔵を抜け出すのに何の役目を勤めるのであろう。