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ふしぎな家_妖人ゴング_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3336

ふしぎな家


小林君は、マユミさんにばけているのを、見やぶられてはたいへんですから、わざと目をほそくして、ぶるぶるふるえているような、ようすをしていました。
さいわい、部屋がうす暗いので妖人ゴングは、まだにせものとは気がつきません。いや、たとえ、部屋が明るくても、明智探偵におそわった小林君の変装術は、なかなか見やぶれるものではないのです。
「ウフフフ……、マユミ! こわいか。だが、安心するがいい。べつに、おまえをとって食おうというわけではない。ただ、しばらくのあいだ、おれのうちに閉じこめておくのだよ。ベッドもあるし、ごはんも三度三度、ちゃんと、たべさせてやる。おまえは、その閉じこめられた部屋から、一歩も、外へ出られないというだけのことだよ。さあ立つんだ。そして、あっちの部屋へいくのだ。……おいきみ、手をかしてやりな。」
すると、ゴングのうしろにいた、ひとりの部下が、ツカツカと、トランクのそばによって、小林君をひき起こすのでした。
小林君は、あくまで女らしいようすで、立ちあがる力もないように見せかけながら、トランクを出て、床の上にうずくまりました。そして、あたりを見まわしますと、そこは、じつにきみょうな部屋なのです。
四方とも壁ばかりで、窓というものが、ひとつもありません。まるで大きなコンクリートの箱のような部屋です。むこうにドアがひらいていますから、外に、廊下があるのでしょうが、そこは、まっ暗で、なにも見えません。部屋の中にも、小さな電灯がひとつ、ついているばかりです。
「それじゃ、このむすめを、れいの部屋へ閉じこめておきな。……マユミ、そのうちに、ゆっくり、話しにいくからな。あばよ。」
ゴングは、そういって、さようならというように、手をふってみせました。
すると、部下のあらくれ男は、小林君の手をひっぱって、ドアの外にでました。暗い廊下をひとつまがると、そこのドアをひらいて、小林君を中へつきたおしておいて、パタンとドアをしめ、外からかぎをかけると、そのまま立ちさってしまいました。
その部屋には、電灯がついていないので、まっ暗です。小林君は、万年筆型の懐中電灯を持っていましたが、それをつけるのは危険だと思ったので、手さぐりで壁をつたって、グルッと、部屋をひとまわりしてみました。ここにも、窓というものが、ひとつもありません。この家に住んでいる悪人たちは、太陽の光がこわいので、わざと、窓をつくらなかったのでしょうか。それとも、なにかほかに、わけがあるのでしょうか。
部屋のすみにベッドがおいてあることが、手さぐりでわかりましたので、小林君は、ともかく、その上に寝ころんで、からだを休めました。長い時間トランクの中で、きゅうくつな思いをしていたので、そうしてながながと、寝そべっていると、じつにいい気持です。
「やつらが、ぼくをマユミさんだと思いこんでいるうちに、この家のようすをさぐって、逃げださなければならない。それには、どんな計略をめぐらせばいいのだろう?」
小林君は目をつむって、いろいろと考えていましたが、いままでのつかれが出たのか、しらぬまに眠ってしまいました。悪人に閉じこめられ、これからどんなめにあうかしれないのに、グウグウ寝てしまうとは、なんというだいたんさでしょう。さすがは少年名探偵です。こんなことには、なれきっているのです。
どのくらい眠ったのか、ふと目をさますと、あたりは、やっぱりまっ暗でした。まだ夜が明けないのかしらと思いましたが、よく考えてみると、この部屋には窓がないのですから、昼間でも、まっ暗なのでしょう。
小林君は、夜光の腕時計を見ました。八時です。ゆうべ川へほうりこまれたのは、夜中の一時すぎでしたから、八時といえば、あくる日の朝にちがいありません。
八時なら悪人たちももう起きているでしょう。いつ、この部屋へやってくるかもしれません。小林君は、ベッドの上に、身をおこして、いざというときの用意をしました。
しばらくすると入口のドアのほうで、カタンという音がして、パッと、電灯がつきました。やみになれた目には、ひじょうに明るく、まぶしいほどでしたが、じつは十ワットぐらいのうす暗い電灯なのです。
小林君は、その電灯の光で、ドアを見ました。すると、ドアに小さな四角いのぞき穴があって、そのむこうから、何者かの目が、じっと、こちらを見つめていました。さっき、カタンと音がしたのは、その、のぞき穴のふたをひらく音だったのです。
小林君は、それを見ると、さも、こわそうな顔になって、いきなり、ベッドの上にうつぶしてしまいました。むろん、ほんとうに、こわいと思ったのではありません。マユミさんにばけているのですから、こわがって見せなければならないのです。
すると、カチカチとかぎをまわす音がして、スーッとドアがひらき、ゆうべの部下の男がはいってきました。パンと牛乳をのせたおぼんを持っています。
「マユミさん、なにもそんなに、こわがることはないよ。親分とちがって、おれは親切ものだからな。エヘヘヘヘ……。さあ、これをたべな。それから、トイレは、むこうのすみにあるよ。部屋から出すわけにいかないから、まあ、あれでがまんするんだよ。」
見ると、むこうのすみに、西洋便所のような白いせとものがおいてありました。そのそばの台の上に、大きな水さしと、コップと、洗面器もあります。ゆうべは、まっ暗で気がつかなかったけれど、ちゃんと、そこまで用意がしてあったのです。
そうして、昼の食事、夜の食事と、なにごともなく一日がたって、二日目の夜がきました。妖人ゴングは、一度も、姿をあらわしません。どこかへ出かけているのでしょうか。
小林君は、一日じゅう、じっとがまんをしていましたが、今夜こそは、このふしぎな家を探検する決心でした。夜のふけるのを待って、部屋をぬけだすつもりです。
腕時計が十一時になったころ、小林君はスカートの中にはいている半ズボンのポケットから、まがった針金をとりだしました。そして、ドアのそばへいって、その針金をかぎ穴にさしこんで、なにかゴチゴチやっていましたが、しばらくするとカチンと錠がはずれて、ドアがひらきました。
ある大どろぼうは、針金一本あれば、どんな錠前でもひらいてみせると、いったそうですが、探偵のほうでも、ときには、錠前をやぶる必要があるので、明智探偵は、そのやりかたを、小林君におしえておきました。ですから、小林君は、いつでも、ポケットに、その道具の針金を用意していました。いま、それが、役にたったのです。

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12/01 09:54