赤いトンガリ帽
そのあくる朝六時ごろのことです。隅田川と東京港のさかいめのあたり、造船工場などのある川岸に、ふしぎなことがおこっていました。
川岸の道路には、人が落ちないように、コンクリートの低いてすりのようなものが、ずっとつづき、ところどころ、それがきれて、船から荷物をあげるための広い坂道が、水面の近くまでくだっています。
まだはやいので、川岸には人どおりもなく、工場でも仕事をはじめておりません。そのさびしい川岸の道を、ふたりの労働者が、なにか話しながら歩いてきました。
ひとりは五十ぐらいの、ひょろひょろと、背の高いおとなしそうな男、もうひとりは、背が低くて、まるまると太ったおどけた顔の男です。
「おや、へんなものが、流れているぜ。」
丸さんが立ちどまって、川岸のそばの水面を見ながら、小首をかしげました。
「うん、へんだね。こんなところに、ブイが、流れてくるなんて。」
長さんも、ふしぎそうな顔をしました。
それは、赤くぬった大きな鉄の
このブイは船の航路のめじるしになるように、沖のほうに浮かべてあるのですが、そのくさりがきれて、隅田川の入口まで流れてきたのでしょうか。
「へんだね。べつに、あらしがあったわけでもないのに、こんなところに、ブイがあるなんて。」
「うん、それもそうだがね。もっと、おかしいことがあるよ。このブイは、いやに動くね。まるで生きているようだ。」
丸さんが、目をまんまるにして、ふしぎでたまらないという顔をしました。
まるほど、そういえば、巨大な赤いトンガリ帽は、波もないのに、異様にぐらぐらゆれています。トンガリ帽が、右にかたむいたかと思うと、すぐにまた、左にかたむき、それを、いつまでも、くりかえしているのです。道化師が、首をふっているみたいです。
このふしぎなブイは、どうしてこんなところに、浮いていたのでしょう。
なぜ、首ふり人形のように、ゆれていたのでしょう。それには、じつに恐ろしいわけがあったのです。それが、どんなわけだったか、みなさんひとつ、考えてみてください。