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地底の声_妖人ゴング_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3337

地底の声


お話かわって、こちらは東京世田谷区の花崎さんの家です。ここでも、みょうなことが起こっていました。
西多摩郡の山の中にかくれていたのは、にせものだったのですから、ほんもののマユミさんと俊一君は、花崎さんの家の、どこかに身をひそめていたのかというと、そうでもありません。ふたりは、花崎さんの家からも、姿を消してしまったのです。明智探偵の計略で、ほんもののほうも、どこかへ、かくしてしまったのです。
おとうさんの花崎検事とおかあさんだけは、明智と相談のうえ、ふたりの子どもをかくしたのですから、ほんとうのことを知っていましたが、やとい人などは、なにも知りません。マユミさんと俊一君が、どこかへいってしまったので、ゴングにさらわれたのではないかと、おおさわぎです。
おとうさんやおかあさんも、うわべは心配そうにして、ほうぼうへ電話をかけてたずねたり、警視庁の中村警部にもしらせましたので、警部は数名の刑事をつれて、花崎さんの家をしらべにきました。
この中村警部は明智探偵の親友ですから、ちゃんと、ほんとうのことを知っていました。でも、世間には、ふたりがゆくえ不明になったと、見せかけておかなければ、ゴングをだますことができませんので、わざと、さがしをしたりして、さわいで見せたのです。
それから毎日、ひとりの刑事が花崎さんの家につめきって、なにかの見はりをすることになりました。刑事といっても、ふつうのセビロを着ているのですから、花崎さんの事務員としか見えません。だれもあやしむものはないのです。
しかし、その刑事さんは、いったい、なにを見はっていたのでしょう。花崎さんの家の西洋館のはしにある、俊一君の勉強部屋に、刑事さんはいつも腰かけて、窓の外を見ていました。ゴングが庭へしのびこんでくるのを、待ちかまえているのでしょうか?
そのうちに、みょうなことが起こってきました。
ある夕がたのこと、ひとりのお手伝いさんが顔色をかえて、マユミさんたちのおかあさんの部屋へ、かけこんできました。
「おくさま、なんだかへんですわ。いま、お庭を歩いていましたら、どこかから歌をうたっている声が、かすかに聞こえてきたのです。それが、俊一さんが、いつもおうたいになる歌で、声も俊一さんと、そっくりなのです。わたくし、おやっと思って、庭の木のあいだを探してみましたが、だれもいません。それでいて、歌の声は、いつまでも、かすかにつづいているのです。おくさま、その声は、なんだか地の底から、ひびいてくるように思われました。わたくし、恐ろしくなりました。俊一さんは、もしかしたら、庭の地の底にいらっしゃるのではないでしょうか。その歌は、さびしい悲しそうな声でしたわ。」
と、さもこわそうに、うしろをふりかえりながら、うったえるのでした。
おかあさんは、それを聞いても、べつに心配らしいようすもなく、笑いながら、お手伝いさんをたしなめました。
「それは気のせいですよ。そんなばかなことがあるものですか。きっとへいの外で、どこかの子どもが、うたっていたのよ。」
お手伝いさんは、おくさまが取りあってくださらないので、そのまま、ひきさがりましたが、このふしぎなできごとは、けっして、お手伝いさんの気のせいではなかったのです。
俊一君は、ほんとうに、地の底で、悲しい歌をうたっていたのです。いったい俊一君はどこにいたのでしょうか。
ところが、その晩のこと、もっともっと恐ろしいことが起こりました。
花崎さんの家の上のまっ暗な空を、一台のヘリコプターが、通りすぎました。ブーンというプロペラの音が聞こえたのです。
しかし、飛行機やヘリコプターが、家の上をとおるのは、いつものことですから、だれも、あやしむものはありませんでした。
すると、それからまもなく、花崎さんのお庭の空いっぱいに、あの恐ろしい怪物の顔があらわれたのです。
「ウワン……ウワン……ウワン……ウワン……。」
という、ぶきみな音が、教会の鐘のようにひびきわたったので、花崎さんをはじめ家の人は、みんな、窓や縁がわに出て、空を見あげました。
すると、あの恐ろしい顔が、らんらんと目を光らせ、牙をむきだして、やみの空いっぱいに、花崎さんの庭を見おろして、ウワン、ウワンと、笑っていたではありませんか。
あいては雲の上の怪物です。どうすることもできません。みんなは、一つの部屋に逃げこんで、耳をおさえて、うずくまっているほかはないのでした。

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12/01 12:48