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目羅博士の不思議な犯罪(6)_目罗博士不可思议的犯罪_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3336

 というのは、(その)二つのビルディングは、同じ位の大きさで、両方とも五階でしたが、表側や、側面は、壁の色なり装飾なり、まるで違っている(くせ)に、峡谷の側の背面丈けは、どこからどこまで、寸分(すんぶん)違わぬ作りになっていたのです。屋根の形から、鼠色の壁の色から、各階に四つずつ開いている窓の構造から、まるで写真に写した様に、そっくりなのです。()しかしたら、コンクリートのひび割れまで、同じ形をしていたかも知れません。
その峡谷に面した部屋は、一日に数分間(というのはちと大袈裟(おおげさ)ですが)まあほんの(またた)くひましか日がささぬので、自然借り手がつかず、(こと)に一番不便な五階などは、いつも(あき)部屋になっていましたので、僕は(ひま)なときには、カンヴァスと絵筆を持って、よくその空き部屋へ()り込んだものです。そして、窓から(のぞ)度毎(たびごと)に、向うの建物が、まるでこちらの写真の様に、よく似ていることを、不気味に思わないではいられませんでした。何か恐ろしい出来事の前兆みたいに感じられたのです。
そして、其僕の予感が、間もなく的中する時が来たではありませんか。五階の北の(はし)の窓で、首くくりがあったのです。しかも、それが、少し時を隔てて、三度も繰返(くりかえ)されたのです。
最初の自殺者は、中年の香料ブローカーでした。その人は初め事務所を借りに来た時から、何となく印象的な人物でした。商人の癖に、どこか商人らしくない、陰気な、いつも何か考えている様な男でした。この人はひょっとしたら、裏側の峡谷に面した、日のささぬ部屋を借りるかも知れないと思っていると、(あん)(じょう)、そこの五階の北の端の、一番人里離れた(ビルディングの中で、人里はおかしいですが、如何(いか)にも人里離れたという感じの部屋でした)一番陰気な、(したが)って室料も一番(やす)い二部屋続きの室を選んだのです。
そうですね、引越して来て、一週間もいましたかね、()(かく)()(わず)かの間でした。
その香料ブローカーは、独身者だったので、一方の部屋を寝室にして、そこへ安物のベッドを置いて、夜は、例の幽谷を見おろす、陰気な断崖の、人里離れた岩窟の様なその部屋に、独りで寝泊りしていました。そして、ある月のよい晩のこと、窓の外に出っ張っている、電線引込用の小さな横木に細引(ほそびき)をかけて、首を(くく)って自殺をしてしまったのです。


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