日语学习网
虫(21)_虫_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3337


 ギャッと叫んで逃げ出す程、ひどくなっているのではないかと、柾木は息も止まる気持で、階段を(あが)ったが、案外にも、芙蓉の姿は、却って、朝見た時よりも美しくさえ感じられた。触って見れば強直状態であることが分ったけれど、見た所では、少しむくんだ青白い肉体が艶々(つやつや)しくて、海底に住んでいる、ある血の冷い美しい動物みたいな感じがした。そして、(以下三行削除)朝までは、(まゆ)が奇怪にしかめられ、顔全体が苦悶の表情を示していたのに、その表情は(二十一字削除)今彼女は、聖母の様にきよらかな表情となって、彼がふさいでやった唇の隅が、少しほころび、白い歯でニッコリと笑っていた。目が空ろだったし、顔色が蝋の様に透通っていたので、それは大理石に刻んだ、微笑せるそこひ(盲目の()しき魅力)の聖母像であった。
 柾木はすっかり安心した。さっきまでの焦燥が馬鹿馬鹿しく思われて来た。若し芙蓉のこの刹那(せつな)の姿を、永遠に保つことが出来たら、そして、○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○○○○○○していられたら。
 (かな)わぬことと知りながら、彼は果敢(はか)ない(ねがい)を捨て兼ねた。
 彼は医学上の智識も技術も、まるで持合わせなかったけれど、物の本で、動脈から防腐剤を注射して、全身の悪血(あくけつ)()し出してしまうやり方が、最も新しい手軽な死体防腐法であることを読んでいた。防腐液のうすめ方も記憶していた。そこで、(はなは)だ不安だったけれど、兎も角、それをやって見る事にして、階下から水を入れたバケツや洗面器などを運んで(婆やに気附かれぬ為に、どれ程みじめな心遣いをしたことであろう)フォルマリンの溶液を作り、注射の用意をととのえた。書物には○○○○○○○○○○○(○○○○)○○○○○○○○○○、○○○○○○○○、○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○。(うなぎ)みたいにヌメヌメと滑るのを、拇指と人差指で逃がさぬ様に(おさ)えて置いて、ナイフを当てがって、ブッツリ切ると、○○○○、○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○。
 柾木は、まるで彼自身が手術でも受けている様に、まっ青になって、烈しい息づかいをしながら、針をつけないガラスの注射器に、防腐液を含ませ、その先端のとがった部分を動脈の切口にさし込み、継目(つぎめ)の所を息が洩れぬ様に指で圧え、一方の手で、ポンプを押した。だが、こんな作業が彼の様な素人(しろうと)に出来るものではなかった。彼の指がしびれた様になって、云うことを聞かなかったせいもあるけれど、いくら圧しても、ポンプの中の溶液は減って行かぬのだ。いらいらして、力まかせにグイグイ圧すと、○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○、○○○○○○、逆に彼の腕にはねかかる。何度やっても同じ事だ。そこで彼は、まるで器械いじりをする小学生の様に、汗みどろの真剣さで、(あるい)は血管との継目を糸でしばって見たり、或はもう一本の静脈にも同じことをやって見たり、あらゆる手段を試みたが、丁度器械いじりの小学生が、骨を折れば折る丈け、却って器械を滅茶苦茶にしてしまう様に、○○○○○○大きくするばかりであった。結局、彼が無駄な素人手術を思いあきらめたのは、もう夜の十時頃であったが、(何と驚くべき努力であったろう。彼は午後から、殆ど十時間の間、この一事(いちじ)に夢中になっていたのだ)その頃には、用意の洗面器が、(以下二行削除)
 ○○○○○○○○○○○○○、○○○○掃除したり、バケツの水で手を洗ったりしている内に、失望の隙につけ込んで、睡魔が襲い始めた。昨夜一睡もしていないのだし、二日間ぶっ続けに、頭や身体を極度に酷使したので、如何(いか)に興奮していたとは云え、もう気力が尽きたのである。彼は、バケツや洗面器の赤黒く(よど)んだ汚水を始末することも忘れて、クラクラとそこへぶっ倒れたまま、いきなり(いびき)をかき始めた。泥の様な眠りだった。
 殆ど燃え尽きて、ジージーと音を立てている、蝋燭の光が、死人の様に青ざめた顔の、鼻の頭にあぶら汗を浮べ、大きな口を開いて泥睡(でいすい)している柾木の気の毒な姿と、その横に、真白に浮上って見える、芙蓉のむくろのなまめいた姿との、奇怪な対照の地獄絵を、赤々と照らし出していた。


分享到:

顶部
12/01 09:38