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火绳枪(1)_江户川乱步短篇集_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3453

火繩銃

江戸川乱歩

 


 或年(あるとし)の冬休み、私は友人の林一郎(はやしいちろう)から一通の招待状を受け取った。手紙は、弟の二郎(じろう)と一緒に一週間ばかり前からこちらに来て、毎日狩猟(しゅりょう)に日を暮しているが、二人だけでは面白くないから、暇(ひま)があれば私にも遊びに来ないか、という文面だった。封筒はホテルのもので、A山麓(さんろく)Sホテルと名前が刷ってあった。
 永い冬休みをどうして暮そうかと、物憂(ものう)い毎日をホトホト持て余していた折なので、私にはその招待がとても嬉しく、渡りに船で早速(さっそく)招きに応ずることにした。林が日頃仲の悪い義弟と一緒だというのが一寸(ちょっと)気がかりだったが、兎(と)も角(かく)橘を誘って二人で出掛ける事になった。何でも前の日の雨が名残(なごり)なく霽(は)れた十二月の、小春日和(こはるびより)の暖かい日であった。別に身仕度(みじたく)の必要もない私等(ら)は、旅行といっても至極簡単で、身柄一つで列車に乗込めばよかった。この日、橘はこれが彼の好みらしかったが、制服の上にインバネスという変な格好で、車室の隅に深々と身を沈め、絶えずポオのレーヴンか何かを口誦(くちずさ)んでいた。そうやって、インバネスの片袖から突出した肘(ひじ)を窓枠に乗せ、移り行く窓の外の景色をうっとりと眺め乍(なが)ら、物凄い怪鳥(けちょう)の詩を口誦んでいる彼の様子が、私には何かしらひどく神秘的に見えたものだ。
 三時間ばかりの後、汽車はA山麓の停車場に着いた。何の前触(まえぶ)れもしてなかったことだし、停車場には勿論(もちろん)誰も出迎えに来てはいなかったので、私達は直(すぐ)駅前の俥(くるま)に乗ってホテルに向った。ホテルに着くと、私達を迎えたホテルのボーイが私達に答えて言った。
「林さんでございますか、弟様の方はどこかへお出ましになりましたが、兄様の方は裏の離れにお寝(やす)みでございます」
「昼寝かい」
「ハイ、毎日お昼から暫(しばら)くお寝みでございますので。では離れへ御案内致しましょう」
 その離れは母屋(おもや)から庭を隔てて十間程奥に、一軒ポツンと建っている小さな洋館であったが、母屋から真直(まっすぐ)に長い廊下が通じていた。
 部屋の前に私達を導いたボーイは「いつもお寝みの時は、内から錠を卸(おろ)してございますので」と言いながら、閉された扉(と)を軽く叩いた。併(しか)しよく眠っているとみえて、内部からは何の返事もない。今度は少し強く叩いたが、それでも林の深い眠りを覚ますことは出来なかった。
「オイ、林、起きぬか」
 そこで、今度は私が大声に喚(わめ)いてみた。これなら如何(いか)に寝込んでいても目を覚ますだろうと思ったが、どうした事か、内部(なか)からは何の物音も聞えない。橘も一緒になって、扉(と)を一層力強く叩き乍ら呶鳴(どな)ったが、更(さら)に目を覚ます気配もなかった。私は何だか不安になって来た。非常に不吉な事が想像された。
「オイ、どうも変だぜ。どうかしてやしないか」
 私が橘にそう言うと、橘も私と同じような事を想像していたらしく、ボーイの方を振り返って言った。
「林がこの内部(なか)で寝ているのに間違いはないでしょうね」
「エエ、それはもう――何しろ内部から鍵もかかっていますし」
「合鍵(あいかぎ)は他にないですか」
「ございます。持って参りましょう」
「これ程叩いても起きないのは、ただ事でない様です。兎も角、合鍵で開けて中の様子を見てみましょう」
 そこで、ボーイは引返して母屋から合鍵を持って来た。
 扉(と)が開かれると、真先に橘が飛び込んだが、入口の真正面の壁際に据えてある寝台の方へつかつかと駈(かけ)て行った橘は、そこで棒立になり「呀(あ)ッ」と微(かすか)な叫びを洩(もら)した。
 寝台の上には、上衣を脱いだ胴衣(チョッキ)一枚の林一郎が、左胸に貫通銃創(かんつうじゅうそう)を受けて横たわっていた。生々しい血潮は、胴衣から流れて白いシーツを紅(くれない)に染め、まだ乾ききらず血の匂いを漂わしている。私はこの意外な林の姿を見ると、もう何を考える力もなく、なかば放心の態(てい)で、ボンヤリ橘の動作を見まもっていた。
 橘は暫く変り果てた林の死体をじっと見詰ていたが、やがて、余りにも不意の血腥(ちなまぐさ)い出来事の為(た)めに碌々(ろくろく)口も利けず、唯(ただ)おろおろ顔の色を変えて震えているボーイに、兎も角急を警察へ知らせるように吩咐(いいつ)けて置いて、さて、寝台の傍(そば)を離れると、更(あらた)めて部屋の内部を克明に見廻し初めた。


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10/05 20:24