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火绳枪(3)_江户川乱步短篇集_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3336

「これは、いったい、どうしたのです」
肩で息をし乍ら、這入って来るなり二郎は誰にともなく呶鳴った。
「君が二郎君だね」
刑事が鋭い口調で(たず)ねた。
「そうです」
二郎はそこに居並んだ、緊張し(きっ)た人々の顔を見ると、一層顔を青くして、震え声で答えた。
「じゃ、これは、この火繩銃はあなたのでしょうね」
刑事は机の上の猟銃を示して聞いた。それを見ると、二郎はハッと驚いたらしかったが、でも平然と答えた。
「そうです。しかし、それがどうかしたのですか」
刑事はそれにかまわず(たた)みかけた。
「今迄あなたはどこへ行っていたのです」
この質問に二郎は一寸(ちょっと)詰ったが、やっと小さな声で呟くように言った。
「それは申上げられません。又申し上げる必要もないと思います」
「失礼ですが、あなた方は真実の御兄弟でしょうね」
そう言った刑事の顔には、皮肉な微笑が(うか)んでいた。
「いいえ、そうじゃないんです」
それから(なお)いろいろの訊問があったり、警察医の検死があったり、部屋の内と外の現場調べがあったりしたが、その揚句(あげく)、二郎は遂に其場(そのば)から拘引(こういん)される事になった。

その夕方、橘と私とは同じホテルの一室で(たがい)に向い合っていた。死体の後始末や何かの為め私達はホテルに残っていたのだ。
「君は暫く姿が見えなかったが、何所かへ行っていたのかい?」
先ず私が口を切た。日頃探偵狂の橘が、こんな事件にぶッつかって安閑(あんかん)としている筈がない。永い間姿を隠していたのは、その間に何か真相を(あば)手掛(てがかり)(つか)んだのか、(あるい)は証拠がための為めに奔走(ほんそう)していたに違いないと思ったので、私は橘の探偵談を聞き()くて、話をその方に向けてみたのだ。とは言うものの、私は真面目に橘の名探偵振りを拝聴しようと思ったのではなく、こんな()まりきった殺人事件を、探偵狂の橘がどう勿体(もったい)つけて説明するか、それが実は聞き度かったのである。すると、橘は突然大きな口を開けて、
「アッハハハハハ」
と笑い出した。
私は何が何やらさっぱり分らず、狐につままれた形でボンヤリ橘の顔を眺めていた。ひょっとしたら林の急死で、頭がどうかなったのではあるまいかと私は疑ってみた。
「田舎の刑事にしては、素早く立ち廻ってよく調べている様だったが、この事件は、詮穿(せんさく)好きの田舎探偵には少し簡単すぎる様だ。そうだ、全く単純過ぎる位単純な事件なんだ――」
橘が(なお)も語り続けようとした時、ボーイに案内されて今(うわさ)していた、その橘の所謂(いわゆる)田舎探偵がヒョッコリやって来た。
「先程は失礼、一寸お訊ねし度い事がありましてね」
探偵が挨拶(あいさつ)した。
「イヤ、如何(いかが)です、二郎君は自白しましたか」
私が()う聞くと、刑事は嫌な顔をして、
「それをあなた方に言う必要はありません」
空嘯(そらうそぶ)いた。
「それじゃ、何の用で来たのです」
「あの時の模様を、もう一度詳しく聞き度いと思うのです」
刑事がそう言って私に詰寄ると、(そば)から橘が片頬に皮肉な、又得意そうな得態(えたい)の知れぬ笑いを(うか)べて刑事に報いた。
「詳しくお調べになる必要はないでしょう」
この侮蔑(ぶべつ)したような言葉は、明かに刑事を怒らせた。
「ナニッ? 調べる必要がないとは何です。僕は職権をもって調べに来たのだ」
「御調べになるのは御自由ですが、僕はその必要がないと思うのです」
「なぜ?」
「あなたはどうお考えか知りませんが、この事件は犯罪ではないのです。従って犯人もなく、犯行を調べる必要もないんです」
この橘の意外な言葉に、刑事も私も飛び上るばかり驚いた。
「犯罪でない? フン、じゃ君は自殺だと言うんだね」
刑事の言葉には、この若造が何を生意気な、という侮蔑の(ひびき)(こも)っていた。


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