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蒙面的舞蹈家(1)_江户川乱步短篇集_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3336

覆面の舞踏者

江戸川乱歩

 


 私がその不思議なクラブの存在を知ったのは、私の友人の井上次郎(いのうえじろう)によってでありました。井上次郎という男は、世間にはそうした男が間々(まま)あるものですが、妙に、いろいろな暗黒面に通じていて、例えば、どこそこの女優なら、どこそこの(うち)へ行けば話がつくとか、オブシーン・ピクチュアを見せる遊廓(ゆうかく)はどこそこにあるとか、東京に()ける第一流の賭場(とば)は、どこそこの外人(まち)にあるとか、その(ほか)、私達の好奇心を満足させるような、種々様々の知識を極めて豊富に持合せているのでした。その井上次郎が、ある日のこと、私の家へやって来て、さて改まって()うことには、
「無論君なぞは知るまいが、僕達の仲間に二十日会という一種のクラブがあるのだ。実に変ったクラブなんだ。()わば秘密結社なんだが、会員は皆、この世のあらゆる遊戯や道楽に飽き果てた、まあ上流階級だろうな、金には不自由のない連中なんだ。それが、何かこう世の常と異った、変てこな、刺戟(しげき)を求めようという会なんだ。非常に秘密にしていて、滅多(めった)に新しい会員を(こしら)えないのだが、今度一人欠員ができたので――その会には定員がある(わけ)だ――一人だけ入会することができる。そこで、友達甲斐(がい)に、君の所へ話しに来たんだが、どうだい入っちゃ」
 例によって、井上次郎の話は、(はなは)だ好奇的なのです。云うまでもなく、私は早速(さっそく)挑発されたものであります。
「そうして、そのクラブでは、一体全体、どういうことをやるのだい」
 私が尋ねますと、彼は待ってましたとばかり、その説明を始めるのでした。
「君は小説を読むかい。外国の小説によくある、風変りなクラブ、例えば自殺クラブだ。あれなんか少し風変り過ぎるけれど、まあ、ああ云った強烈な刺戟を求める一種の結社だね。そこではいろいろな(もよお)しをやる。毎月(まいげつ)二十日に集るんだが、一度毎(ひとたびごと)にアッと云わせるようなことをやる。今時この日本で、決闘が行われると云ったら、君なんか本当にしないだろうが、二十日会では、こっそりと決闘の真似事(まねごと)さえやる。(もっと)も命がけの決闘ではないけれど、或時(あるとき)は、当番に当った会員が、犯罪めいたことをやって、例えば人を殺したなんて、まことしやかにおどかすことなんかやる。それが(しん)に迫っているんだから、誰しも(きも)を冷すよ。また或時は、非常にエロチックな遊戯をやることもある。()(かく)、そうした様々な珍しい催しをやって、普通の道楽なんかでは得られない、強烈な刺戟を(あじわ)うのだ、そして喜んでいるのだ。どうだい面白いだろう」
 といった調子なのです。
「だが、そんな小説めいたクラブなんか、今時実際に()るのかい」
 私が半信半疑で聞き返しますと、
「だから君は駄目(だめ)だよ。世の中の隅々(すみずみ)を知らないのだよ。そんなクラブなんかお(ちゃ)()さ。この東京には、まだまだもっとひどいものだってあるよ。世の中というものは、君達君子(くんし)が考えている程単純ではないのさ。早い話が、ある貴族的な集会所でオブシーン・ピクチュアの活動写真をやったなんてことは、世間周知(しゅうち)の事実だが、あれを考えて見給(みたま)え。あれなんか、都会の暗黒面の一片鱗(へんりん)に過ぎないのだよ。もっともっとドエライものが、その辺の隅々に、ゴロゴロしているのだよ」
 で、結局、私は井上次郎に説伏(せっぷく)されて、その秘密結社へ入ってしまったのです。さて入って見ますと、彼の言葉に(うそ)はなく、いやそれどころか、多分こうしたものだろうと想像していたよりも、ずっとずっと面白い。面白いというだけでは当りません、蠱惑的(こわくてき)という言葉がありますが、まああの感じです。一度(ひとたび)その会に入ったら、それが()みつきです。どうしたって、会員を()そうなんて気にはなれないのです。会員の(すう)は十七人でしたが、その中でまあ会長といった位置にいるのは、日本橋(にほんばし)のある大きな呉服屋の主人公で、これがおとなしい商売柄に似合わず、非常にアブノルマルな男で、いろいろな催しも、主としてこの呉服屋さんの頭からしぼり出されるという訳でした。恐らく、あの男は、そうした事柄(ことがら)にかけては天才だったのでありましょう。その発案が一つ一つ、奇想天外で、奇絶怪絶で、もう間違いなく会員達を喜ばせるのでした。
 この会長格の呉服屋さんの(ほか)の十六人の会員も、夫々(それぞれ)一風変った人々でした。職業分けにして見ますと、商人が一番多く、新聞記者、小説家――それは皆相当名のある人達でした――そして、貴族の若様も一人加わっているのです。かく云う私と井上次郎とは、同じ商事会社の社員に過ぎないのですが、二人共金持の親爺(おやじ)を持っているので、そうした贅沢(ぜいたく)な会に入っても、別段苦痛を感じないのでした。申し忘れましたが、二十日会の会費というのが少々高く、たった一晩の会合のために、月々五十円ずつ徴収(ちょうしゅう)せられる外に、催しによってはその倍も三倍もの臨時費が()るのでした。これはただの腰弁(こしべん)にはちょっと手痛い金額です。


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