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蒙面的舞蹈家(4)_江户川乱步短篇集_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3336

 正面の大時計を見ますと、もはや指定の時間も過ぎ、会員だけの人数も揃いました。この中に井上次郎のいない筈はないのだがと、私はもう一度目を見はって、一人一人の異様な姿を調べてゆきました。ところが、やっぱり、疑わしいのは二三見当りましたけれど、これが井上だと云い切ることのできる姿はないのです。荒い碁盤縞(ごばんじま)の服を着て、同じハンチングをつけた男の肩の恰好が、それらしくも見えます。又、赤黒い色の支那服を着て、支那の帽子をかむり、態と長い辮髪(べんぱつ)を垂れた男が、どうやら井上らしくも見えます。そうかと思うと、ピッタリ身についた黒の肉襦袢(にくじゅばん)を着て、黒絹で頭を包んだ男の歩きっぷりが、あの男らしくも思われるのです。
 朧なる部屋の様子が影響したのでもありましょう。或は又、先にも云った通り、彼等の変装が揃いも揃って巧妙を極めていたからでもありましょう。が、それらの(いず)れよりも、覆面というものが、人を見分け(にく)くする力は恐しい程でありました。一枚の黒布、それがこの不可思議な、または無気味な光景を(かも)し出す第一の要素となったことは申すまでもないのです。
 やがて、お互がお互を探り合い、疑い合って、奇妙なだんまりを演じているその場へ、先程玄関に立っていたボーイ体の男が入って来ました。そして、何か諳誦(あんしょう)でもするような口調で、次のような口上を述べるのでありました。
「皆様、長らくお待たせ致しましたが、もはや規定の時間でもございますし、御人数もお揃いのようでございますから、これからプログラムの第一に()めました、ダンスを始めて頂くことに致します。ダンスのお相手を定めますために、予めお渡し申しました番号札を、私までお手渡しを願い、私がそれを呼び上げますから、同じ番号のお方がお一組におなり下さいますよう。それから、甚だ失礼ではございますが、中にはダンスというものを御案内のないお方様がおいでになりますので、今夜は、どなた様も、ダンスを踊るというお(つも)りでなく、ただ音楽に合せまして、手をとり合って歩き廻るくらいのお考えで、御案内のないお方様も、少しも御遠慮なく、御愉快をお尽し下さいますよう。()お、組合せが極まりましたならば、お興を添えますために、その部屋の電燈をすっかり消すことになっておりますから、これもお含みおきくださいますようお願い致します」
 これは多分井関さんが命じたままを復唱したものに過ぎないのでしょうが、それにしても何という変てこな申渡しでありましょう。いずれは狂気めいた二十日会の催しのことですけれど、ちと薬が()きすぎはしないでしょうか。私は、それを聞くと、何となく身のすくむ思いがしたことであります。
 さて、ボーイ体の男が番号を読上げるに従って、私達三十四人の男女は、丁度小学生のように、そこへ一緒に並びました。そして、十七(つい)の男女の組合せが出来上った訳です。男同志(どうし)でさえ、誰が誰だか分らないのですから、まして相手と(きま)った女が何者であるか、知れよう道理はありません。夫々の男女は、朧気な燈光の(もと)に互に覆面を見交して、もじもじと相手の様子を(うかが)っています。流石(さすが)に奇を好む二十日会の会員達も、いささか(たち)すくみの形でありました。
 同じ番号の縁で私の前に立った婦人は、黒っぽい洋装をして、昔流の濃い覆面をつけ、その上から御丁寧にマスクをかけていました。一見した所、こうした場所にはふさわしくない、しとやかな様子をしていましたけれど、さて、それが何者であるか、専門のダンサーなのか、女優なのか、或はまた堅気(かたぎ)の娘さんなのか、井関さんの(せん)だっての口振りでは、まさか芸妓(げいしゃ)などではありますまいが、何しろ、全く見当がつかないのです。
 が、だんだん見ています内に、相手の女の身体(からだ)つきに、何だか見覚えのあるような気がしてきました。気の迷いかも知れませんけれど、その恰好は、どこやらで見たことがあるのです。私がそうして彼女をジロジロ眺めている間に、先方でも同じ心と見えまして、長髪画家に変装した私の姿を熱心に検査し、思いわずらっている様子でした。
 あの時、蓄音器の廻転し始めるのがもう少しおそく、電燈の消えるのがちょっとでも遅れたなら、或は私は、後に私をあのように驚かせ恐れさせた所の相手を、(すで)に見破っていたかも知れないのですが、惜しいことには、もう少しという所で、一時に広間が暗黒になってしまったのです。
 ハッと暗闇になったものですから、仕方なく、或はやっと勇気づいて、私は相手の女の手を取りました。相手の方でも、そのしなやかな手頸(てくび)を私にゆだねました。気の利いた司会者は、態とダンス物を避けて、静かな絃楽合奏のレコードをかけましたので、ダンスを知った人も、知らない人も、一様に素人(しろうと)として、広間の中を廻り始めました。()しそこに(わず)かの光でもあろうものなら、気がさして、(とて)も踊ることはできなかったでしょうが、司会者の心遣いで、幸い暗闇になっていたものですから、男も女も、案外活溌に、おしまいには、コツコツという沢山(たくさん)跫音(あしおと)が、それから、あらい息使いが、広間の天井に響き渡る程も、(いきおい)よく踊り出したものであります。
 私と相手の女も、初めの間は、遠方から手先を握り合って、遠慮勝ちに歩いていたのが、だんだん接近して、彼女の(あご)が私の肩に、私の(かいな)が彼女の腰に、密接して、夢中になって踊り始めたのであります。


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