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暗黒世界(2)_白发鬼_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334

 わしはいやだ。一度の死は、悲しくとも苦しくとも、何人も免れぬ所だ。苦情は云えぬ。だが、一度死んだのでは足らず、人間最大の苦しみを、二度まで繰返さねばならぬとは。いやだ、いやだ。わしは(とて)も我慢が出来ない。どんなことをしてでも、この穴蔵を出ないで置くものか。
 わしは気違いの様に、出る限りの声をふり絞ってわめいた。わめき続けた。はては、子供の様にワアワアと泣き出した。(しょ)っぱい涙が、口の中へ流れ込んだ。
 だが、わしの()れる様な叫声、泣声は、四方の壁に(こだま)して、二倍三倍の怪音となって、わし自身の耳にはね返って来るばかりだ。穴蔵は淋しい郊外の小山の中腹にあるのだ。そこの細道は、わしの家の葬式の外は、滅多に人の通らぬ所だ。いくら叫んだとて、誰が助けに来るものか。又仮令わしの声を聞きつけるものがあったとしても、その人はわしを助け出すどころか、却って、気味悪がって、一目散に逃げ出すに(きま)っている。
 泣いても、わめいても何の効果もないと悟ると、今度は、あやめもわかぬ闇の中を、棺につまずき、石壁に突き当りながら、滅多無性に走り廻った。どこかに、壁の隙間でもないかと、駄目とは分っていても、探し廻って見ないではいられぬのだ。
 走り廻る内に、わしは方角を失ってしまった。出口はどちらなのか、さっき破った棺はどの辺にあるのか、探れども探れども、手に触れるものとてはない。わしは、よみじの様な暗闇の真中に、一人ポツンと取残された。
 この闇が、どこまでも、永遠の彼方まで続いているのではないかと思うと、何とも云えぬ淋しさに、身がすくんだ。
 わしは、音もなく、色もない暗黒世界の恐ろしさを、あの時程痛切に感じたことはない。
 今までは、逃げ出そうと、夢中になっていたので、さ程でもなかったが、いざ、この暗黒世界から、永久に出られぬ運命と()ると、闇の怖さが身にしみた。墓場とは云っても、そこに眠っているのは、わしの先祖の死骸ばかりだ。それは別に怖いとも思わぬ。ただ、なんにも見えぬということが、なんにも聞えぬということが、限りない恐怖となって、ひしひしと身に迫った。
 アア、光がほしい。蛍火程の光でもいい。何か目に見えるものがなくては、我慢が出来ぬ。同じ死ぬなら、光の下で死にたい。こんな暗闇の中で死んだなら、極楽への道も分らず、まよまよと迷い歩いて、地獄に堕ちる(ほか)はないだろう。アア、恐ろしい。
 わしはじっとしていられなかった。といって、いくら走り廻ったところで、闇は尽きぬのだ。よみじの外へは出られぬのだ。


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