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朱凌谿(2)_白发鬼_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3336
 芝居を見ても、小説を読んでも、さもさも退屈らしく、「ナアンだこんなもの」という顔をする様につとめ、人に物を云うにも出来る丈け簡単に、形容詞や間投詞を省いて、ぶっきらぼうに云う様にした。
えらいもので、そうして十日二十日とたつ内には、わしは以前とは打って変った、無感動な陰気臭い男になって行った。勿論これは練習丈けではなく、生きながらの埋葬というあの大苦難を経て、その上復讐の悪念にこり固った為に、自然と心の底から、かたくなな陰気な性質に変って来たものに違いない。遂には、初めの内はチヤホヤしたボーイ達まで、「あんな気難しい客はない」と蔭口を利く程になった。
サア、これで愈々いよいよ里見重之の仕上げが出来たと云うものだ。故郷のS市へ帰って大復讐に着手する時が来たのだ。一ヶ月あまり上海滞在中、練りに練った復讐計画を実行に移す時が来たのだ。
だが、この地を出発する前に、一つ丈けして置くことがある。それは大牟田子爵の親族の里見重之が、二十何年ぶりで、故郷に帰るという前ぶれだ。それについては、うまい思案があった。わしは九州のある大新聞の編輯局にいる、旧大牟田領の家臣であった男に当てて高価な贈物と共に一通の手紙を送った。
首を長くして待っていると、わしの計画は美事みごと図に当って、間もなくその新聞の社会面に、麗々しく、大体こんな風な記事が掲載された。
「近頃羨むべき成功美談がある。その主人公は旧S藩主大牟田子爵家の親族で里見重之という人物であるが、今から二十余年前単身南米に渡航し、其後ようとして消息を絶った為に異郷に死せるものと信じられていたが、実はあらゆる艱難辛苦かんなんしんくを嘗めて大身代を作り、余生を楽しく送らんが為に、莫大な財産を携えて帰って来た。途中上海に立寄り、今は同地××ホテルに滞在中であるが、近日S市に帰って永住の計を定めるとの事故ことゆえ、知ると知らざるとを問わず、交際社会の人々は双手そうしゅを上げてこの大成功者を歓迎することであろう」
という様な意味であった。その記者は、掲載紙二部に、鄭重な挨拶の手紙をつけて、わしのホテルへ送って来たものだ。
この新聞記事は意外の利目があった。S市は勿論附近の名のある人々から、喜びの手紙を送って来るものもあり、旅館商店などの案内状も舞い込んで来た。わしは習い覚た冷淡な態度で、そんな手紙に驚きもせず、ごくあたり前のことの様に、平然として読み下し、平然として屑籠くずかごに投げ込んだ。
ただ少々不満であったのは、当の瑠璃子から何の反響もないことだが、こちらから手紙をやった訳ではないのだから、新聞記事を読んでも例の負け嫌いで、態とそしらぬ振りをしているのかも知れない。それとも、川村との逢う瀬に忙しくて、新聞に目を通す暇さえないのであろうか。
だが、そんなことはどちらでもよい。瑠璃子から挨拶状がこないからといって、わしの計画には何の影響もないことだ。
さて準備はすっかり整った。愈々明日にもこの地を出発しようかと思っている所へ、実に意外な事件が降って湧いた。
午後のことであったが、お茶を持って来た給仕が何か非常に昂奮した様子で、
「旦那大変です」
というのだ。
わしは例の口調で少しも驚かず、
「騒々しいじゃないか。大変とはどうしたのだ」
と聞返した。
「この先の公園で、海賊が捕われたのです。大変な騒ぎです」
「ハハハハハ、賊が捕われるのは当り前の話だ。わしはそんなものに興味はない」
「イイエ、それが大変な賊なのです。旦那もご存知でしょう、ホラ例の有名な朱凌谿が捕まったのです」
朱凌谿と聞くと、流石にわしもびっくりした。今ではこの大賊とわしとは、満更まんざら他人でないのだ。イヤ、それどころか、わしの命が助かったのも彼のお蔭、こうして復讐事業に着手出来たのも、彼の盗みためた財宝があったればこそだ。
仮令よそながらにもせよ、一目彼の姿を見て、この恩を謝し度いものだ。わしはそう思ったので、すぐ様公園へ行って見た。
公園は黒山の人だかりであった。見るとその群集の中に、一際目立つ大男が支那警官に縄尻を取られて、こちらへ歩いて来る。如何にも海賊の首領らしい面魂だ。関羽かんうの絵を見る様にいかめしい頬髯を生やし、濃い眉の下にギョロギョロした目を輝かせ、口は一文字に結んで、悪びれもせず、群る見物を睨み廻している。服装は胸に紋章のついた立派な支那服であった。
彼の周囲まわりには、賊の風采に比べて甚だ見劣りのする警官達が十数名、帯剣の柄を握って警戒している。
朱凌谿は、不敵の面魂で群衆をねめ廻しながら、悠然と歩いて来たが、ふとわしの顔を見ると、ハッとした様に足を止めて、異様に目を輝かせ、わしの本性を見破ろうとでもするかの如く、鋭くわしの顔をにらみつけた。
無論朱凌谿がわしを見知っている筈はないのに、この異様な凝視は一体何が為であるか。わしは薄気味悪くなって、その場を立去ろうと思っていると、賊はじっとわしを見つめたまま、突然太い声で、しかも流暢りゅうちょうな日本語で叫んだ。
「オオ、お前の姿は実によく変っている。俺の目でも見破ることが出来ぬ程だ」
わしはこの異様な怒鳴り声を聞くと、脳天をぶちのめされた様なショックを感じて、思わず顔を赤らめ、身がすくんでしまった。「お前」という

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