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二匹の野獣(2)_人豹(双语)_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3337
 だが、恩田はとうてい本物の猛獣の敵ではなかった。徐々に徐々に、彼は部屋の隅へとおしつめられて行った。猛獣の鋭いつめは、恩田の洋服をき破って、彼の肩口へしっかりとい入っていた。恩田は両腕に精一杯の力をこめて、豹のあごを支えていたが、その力も衰えはじめた。猛獣の血にえた牙は、ジリリジリリと、相手の喉笛へ迫って行く。
 もう一分間そのままにしておいたなら、怪人恩田はこの世のものではなかったに違いない。神谷と弘子との仇敵きゅうてきは亡びてしまったに違いない。そして、後日あれほど世を騒がし、人の生き血を流した大害悪をも、未然に防ぐことができたであろう。
 だが、幸か不幸か、いやいや、実もって不幸なことには、恩田の命は死の一歩手前で喰いとめられた。最後の一瞬間に救い主が現われた。
 息を止めて見入っていた神谷の鼓膜に、突如異様な衝動が伝わった。眼の前の光景が、グラグラと揺れたように感じられた……銃声だ。誰かが恩田の危急を救うために発砲はっぽうしたのだ。
 立ち昇る白煙の下を、猛獣は剥製はくせいひょうのようにピンと四肢ししを伸ばして、一転、二転、三転し、ついに長々と伸びたまま動かなくなった。
 わずかに命を取り止めた怪人恩田は、さすがにグッタリとなって、急に起き上がる力もない。
 すると、神谷の隙見すきみの眼界へ、銃を片手にノッソリと現われたのは、さいぜん彼をこの密室へとじこめた白髪白髯はくはつはくぜんの老いぼれ、恩田の父親であった。息子の危急を救ったのはその父であった。
おりをあけたのは誰だっ、まさかお前ではあるまい。そこな娘さんか」
 彼は鋭い眼を光らせて、檻の前に倒れ伏している弘子の半裸体をにらみながら尋ねた。
「そうだよ。あいつだ。あいつめ、豹に僕をわせようとして、檻をあけやがった」
 恩田が苦しい息遣いで、さも憎々しくどなった。
「ウム、そうか。してみると、この娘はお前のかたきだな。いや、それよりも、大事な豹の敵だ。わしはこいつを撃ち殺すとき、どれほど悲しく思ったか、どれほど残りしく思ったか」
 言いながら、老人は豹の死骸しがいの前にしゃがんで、悲しみに耐えぬもののように、その背中をでながら、長いあいだ黙祷もくとうしていたが、やがて、キッとして立ち上がると、はげしい語調で、
「よし、もうお前を止めやしない。思う存分にするがよい。わしの可愛かわいい豹の敵討かたきうちだ。どうともお前の思うようにするがよい」
 と言い捨てて、そのまま眼界から消えて行った。


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