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蘭子の女中奉公(2)_人豹(双语)_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3337

「そうなすっちゃどうです。あいつが捕まり次第、事情をうちあけて暇を取ってしまえばいいんだから。それと、お母さんが少し(さび)しいだろうけれど、親戚(しんせき)のかたにでもきてもらえばいいじゃありませんか。人間(ひょう)は何もお母さんをどうこうしようというわけではないんだから」
熊井もしきりに勧めるので、結局思いきって、それを実行することに話がきまった。
「僕が送って行くといいんだけれど、それでは相手に悟られるおそれがある。神谷さんも、連れ立って行かない方がいいでしょう。心配だったら、それとなく監視する方法はいくらもあるんだから。僕が手紙を書きますよ。田舎(いなか)の知合いの娘さんだということにして。蘭子さんは変装をして、その手紙を持っていらっしゃればいいんです。先方が雇い入れることは間違いありません。僕の母の方からもその事をいわせておきますから」
熊井が具体的の方法を授けた。
そこで三人は一度家に帰って、蘭子のお母さんに、コッソリと相談の次第を耳打ちした。お母さんは最初は気が進まぬ様子であったが、こうでもしなければ怪獣の襲撃を逃れるすべはないと説かれて、不承不承(ふしょうぶしょう)承諾(しょうだく)をあたえた。信頼しきっている神谷青年の勧めをしりぞけかねたのだ。
たちまち相談が一決すると、熊井は長い紹介状をしたためて蘭子に渡し、蘭子は着のみ着のままで、神谷にともなわれて家を出た。
途中たびたび自動車を変えて、蘭子の親友のSというレビュー・ガールのアパートに立ち寄り、そのお友だちを古着屋へ走らせたりして、すっかり変装を終った。人気女優江川蘭子は忽然(こつぜん)としてこの世から消えうせ、そこの鏡台の前に立っているのは、安銘仙(やすめいせん)縞物(しまもの)にメリンスの帯をしめ、髪は櫛巻(くしまき)同然の田舎洋髪、薄黒い顔の両頬(りょうほお)がポッと赤らんだ上州あたりからぽっと出の、田舎田舎(いなかいなか)した、しかしなかなか愛くるしい娘さんであった。
「すてき、すてき、それじゃ誰が見たって、わかりゃしない。さすがにメーク・アップはお手のもんだね」
「まあ、可愛(かわい)いわねえ。神谷さん、蘭子さんのこういう姿も捨てたもんじゃないでしょう」
神谷とSとが、冗談まじりに蘭子の変装を批評し合った。
「さあ、僕はここでお別れだよ。君は一人でこのアパートの裏口を出て、田舎者らしく、タクシーを値切るんだね。そして、幾つも車を替えて、できるだけ大廻(おおまわ)りをして、築地(つきじ)の高梨家へ行くんだ。田舎言葉がばれないようにね」
神谷は蘭子を部屋の隅に呼んで、ソッとささやくのだ。
「あたし、なんだか心細いわ。大丈夫かしら」
「大丈夫だとも、僕は別の車で、先方の家の前まで、君について行くよ。そして、君が無事に奉公するのを見届けて帰るよ。それから、何か急な用事ができたら、僕のうちへ電話をかけるがいい。僕はすぐに飛んで行ってあげるよ」
間もなくアパートを出たこの可愛らしい田舎娘は、神谷に言われた通り、自動車に乗ったり降りたりを、幾度もくり返して、築地の高梨邸に到着した。別の車に乗った神谷青年が、不思議な尾行をつづけたことはいうまでもない。

 


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