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第3章 ローリストン・ガーデンズの怪事件(3)
日期:2023-10-30 15:39  点击:297

 ローリストン・ガーデンズ三番地には、不吉で不穏な空気が漂っていた。通りから少し引っこんだところに四軒の家が建ち、うち二軒は人が住んでいるが、ほかの二軒は空き家になっている。目指す現場はその二軒のうちの片方だ。空き家の壁にはカーテンもなく空っぽで陰気な窓が三列に並んで、恨めしげな視線をこちらに向けている。薄汚れたガラスに〝貸家〟の札が点々と貼られているため、白内障にかかって混濁した瞳ひとみのようだ。家と通りのあいだには貧弱な草木がまばらに生えた小さな庭があり、粘土と砂利を混ぜてあるのだろう、黄色っぽく見える小道が庭を突っ切って玄関まで伸びている。夜間に降った雨のせいで、あたりの地面はぬかるんでどろどろだ。庭の周囲には、上部に木の柵さくを渡した高さ三フィートほどのレンガ塀がめぐらされ、その塀のこちら側にいかつい体格の巡査が寄りかかっている。そのまわりに群がる野次馬たちは、家の様子がかすかにでも見えないものかと首を伸ばしたり目を凝らしたりしている。

 私はてっきり、シャーロック・ホームズはすぐさま家に駆けこんで、ただちに事件の捜査を開始するものと思っていた。ところが、いっこうにそういう素振りを見せない。のんきというかなんというか、この状況を考えると、わざともったいをつけているとしか思えない態度で通りを歩きまわっているのだ。ときおり地面を見下ろしたり、空を見上げたり、道の反対側の家や柵をぼんやり眺めたりしていた。そうしてひととおり観察を済ませると、ようやくゆっくりした足取りで庭へ入り、地面を目でたどりながら玄関に続く小道を、厳密に言えば小道の脇の草の上を進んでいった。途中で二回立ち止まったが、そのうち一回はにやりと笑って満足そうな声を漏らした。ぬかるんだ粘土質の地面には足跡が無数に残っていて、すでに警察が踏み荒らしたあとなのだとわかった。この状態でホームズはどうやって手がかりを探すつもりだろう、と私は首をひねった。それでも、彼が洞察力に人一倍秀でていることはすでに充分わかっていたので、私には見えなくても彼には見えているものがたくさんあるにちがいないと確信していた。

 玄関まで行くと、亜麻色の髪をした色白で長身の男に出迎えられた。彼は手帳を手に駆け寄ってきて、嬉うれしそうにホームズの手を握りしめた。「これはどうも、よくおいでくださいました。現場はまっさらな状態で保存してありますよ」

「向こうは例外のようですがね!」ホームズはいま通ってきた小道を指差した。「バッファローの群れだって、あそこまで派手に踏み荒らしはしませんよ。あんなことを許可するからには、当然前もってきちんと証拠を拾い集めておいたんでしょうね、グレグスン君?」

「いや、それが、あいにく屋内の捜査で手一杯だったもんですから、庭のほうは同僚のレストレイド君に任せておいた次第でして。彼もここへ来ていますんでね」刑事は弁解がましく言った。

「きみとレストレイド君という腕利きが二人もそろっているなら、部外者の僕が来てもたいしてお役に立てないでしょうね」ホームズは私をちらりと見て、皮肉たっぷりに眉まゆを上げた。

 単純にお世辞と受け取ったのか、グレグスン刑事は満足げに手をもみ合わせた。「もちろん、われわれは万事抜かりなく対処したつもりですが、めったにない奇怪な事件なのでホームズさんのお気に召すかと思いましてね」

「ここへは辻馬車で来たんですか?」ホームズが尋ねた。

「いいえ」

「レストレイド君も?」

「ええ、ちがいます」

「じゃ、現場を見せてもらおうか」ホームズは意図がよくわからない質問のあとに言い、ずかずかと家のなかへ入っていった。グレグスンが驚いた顔であとを追った。


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