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第3章 ローリストン・ガーデンズの怪事件(5)
日期:2023-10-30 15:39  点击:285

「死体は動かしていませんね?」刑事に向かってホームズが尋ねる。

「はい、われわれが検分したときを除けば」

「もう遺体保管所に移してけっこうです。これ以上調べても、なにも出てこないでしょうから」

 グレグスンは担架と四人の部下を手配していた。彼らは呼ばれるとただちに部屋へ入ってきて、死者を運びだす作業に取りかかった。すると、抱えあげた拍子に指輪がひとつ死体から落ち、音をたてて床に転がった。レストレイドがそれを拾いあげ、いぶかしげに眺めた。

「ここに女がいたらしいぞ」レストレイドは興奮して大声をあげた。「こいつは女の結婚指輪だ」

 彼がそう言いながら指輪をてのひらに載せて差しだすと、私たちはまわりに集まって、それをつぶさに観察した。たしかに、かつては花嫁の指にはまっていたはずの金の平型の指輪だった。

「ややこしいことになったな」グレグスンが言った。「やれやれ、ただでさえ複雑な事件だってのに」

「逆に単純になったと思いますがね」ホームズは口を開いた。「とにかく、いつまでも指輪を眺めていたって埒らちは明かない。それよりポケットの中身は?」

「こっちにまとめてあります」グレグスンは玄関ホールへ私たちを先導し、階段の一番下の段に置いてあったがらくたのような小物を指差した。「まずは金時計。ロンドンのバロード社製で、製品番号は九七一六三。時計鎖はアルバート型で、ずっしりと重たい純金製。それからフリーメイソンの紋章が入った金の指輪。ブルドッグの頭をかたどって、目玉にルビーをはめこんだ金のピン。ロシア革の名刺入れ。中身の名刺はクリーヴランド市のイーノック・J・ドレッバーとなっており、ワイシャツのE・J・Dという縫い取りと一致します。財布はありませんでしたが、小銭で七ポンド十三シリングばかりの所持金。それから、見返しにジョゼフ・スタンガスンの名前が入った、ボッカチオの『デカメロン』のポケット版。あとは手紙が二通。E・J・ドレッバー宛あてとジョゼフ・スタンガスン宛が一通ずつです」

「住所は?」

「ストランド街のアメリカ両替所気付で、留め置きになっています。差出人はいずれもガイオン汽船会社で、リヴァプールからの出航予定を知らせる内容でした。気の毒に、この男はもうじきニューヨークへ帰るところだったようですな」

「もう一人のスタンガスンという人物については調べたんですか?」

「むろん、ただちに着手しましたよ」グレグスンが答える。「新聞という新聞に広告を出し、アメリカ両替所へも部下を一人やっています。まだ帰ってきていませんが」

「クリーヴランドへの問い合わせは?」

「今朝、電報を打ちました」

「どういう内容で?」

「事情を細かく説明したあとに、参考になりそうなことがあれば知らせてほしいと伝えました」

「重大だと思われる点を挙げて、具体的に尋ねることはしなかったんですか?」

「スタンガスンに関する情報を求めましたが」

「たったそれだけ? ほかに事件の核心をつきそうな事柄はありませんか? 追加の電報を打つつもりはないんですか?」

「伝えるべきことは全部伝えましたから」グレグスンはむっとした様子で答えた。

 ホームズは含み笑いして、そのあとなにか言おうと口を開きかけた。が、そのとき、私たちが玄関ホールへ移動したあとも食堂に残っていたレストレイド警部が、もみ手をしながら自慢げなもったいぶった態度で現われた。


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