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第3章 ローリストン・ガーデンズの怪事件(7)
日期:2023-10-30 15:40  点击:281

「〝天才とは苦痛に耐えうる無限の能力なり〟という言葉があるね」ホームズは笑顔で言った。「やや乱暴な定義ではあるが、探偵業にはぴったりあてはまるよ」

 それまでグレグスンとレストレイドの両警部は、同業者ともいえる素人探偵の調査を好奇心と軽けい蔑べつの織りまざった顔で見守っていた。シャーロック・ホームズの行動には、どんなささいなものであれ、必ずなんらかの明確かつ実際的な目的があるということが私にはうすうすわかりかけてきたが、この二人の刑事はまだ気づいていないようだ。

「どう思われますか、ホームズさん?」二人は口をそろえて訊きいた。

「僕がでしゃばると、きみたちの手柄を横取りすることになるんじゃないかな」ホームズが答える。「それに、お二人ともいまのところ調子は上々のようだから、よけいな口出しは慎むことにします」皮肉たっぷりの口調だ。「ただし、今後も警察の捜査状況を報告してもらえれば、協力は惜しまないつもりですよ。ところで、第一発見者の巡査に会ってみたいんですが、名前と住所を教えてくれませんか?」

 レストレイド警部が手帳を見て答えた。「名前はジョン・ランス。いまはちょうど非番なので、自宅にいるでしょう。ケニントン・パーク・ゲイトのオードリー・コート四六番地です」

 ホームズは住所を書き留めた。

「行こう、ワトスン。さっそくその巡査を訪ねてみよう。あ、そうそう」ホームズは二人の警部を振り向いた。「事件について、参考になりそうなことを少し教えてあげますよ。これは他殺で、犯人は男です。身長が六フィート以上ある血気盛んな壮年。身長のわりに足は小さく、爪つま先さきの角張った安物の深靴を履き、トリチノポリ葉巻を吸っています。この家には被害者と一緒に四輪辻つじ馬車でやって来ました。馬の蹄てい鉄てつは右の前足だけが新しく、ほかの三つは古い。それから、たぶん犯人は赤ら顔で、右手の爪がだいぶ伸びています。まあ、わかるのはせいぜいこれくらいですが、多少は役に立つでしょう」

 レストレイドとグレグスンはそろって疑わしげな薄笑いを浮かべ、ちらっと目配せし合った。

「他殺だとおっしゃいますが、そうなると手口は?」レストレイドが尋ねる。

「毒殺ですよ」シャーロック・ホームズはそっけなく答え、颯さつ爽そうと歩きだした。「レストレイド君、あとひとつだけ」戸口でいきなり振り返った。「〝RACHE〟というのはドイツ語でラッヘ、つまり〝復ふく讐しゆう〟の意味です。よって、レイチェル嬢捜しは時間の無駄だからやめたほうがいい」

 それを捨て台詞ぜりふに、あっけにとられている二人のライバルをその場に残し、ホームズは悠然と立ち去った。


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