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第4章 ジョン・ランス巡査の証言(4)_緋色の研究(血字的研究)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3336

 ホームズは声をあげて笑い、テーブル越しに巡査のほうへ名刺を放った。「僕を殺人罪で逮捕するなどという早まったまねはやめたまえ。僕の役柄は猟犬であって、追われる狼のほうじゃないからね。疑うなら、グレグスン警部とレストレイド警部に訊きいてみるといい。では先を続けて。次にどうしたんだ?」

 ランスは再び腰を下ろしたが、まだ納得しきれない表情だった。「門まで戻って、呼び子を吹きました。マーチャーと、ほかに二人の警官が現場に駆けつけてきました」

「そのときも通りには誰もいなかったのか?」

「はあ、まあ、そうですね。正気のやつは」

「どういう意味だ?」

 巡査はにやりと笑った。「深夜のパトロールではいやというほど酔っぱらいを見てきましたが、あそこまで泥酔したやつは初めてですよ。家から出ていくと、そいつが門のところにいたんです。柵さくにもたれかかって、コロンビーンがどうの、最ニユ新ー・流フア行ングのルド・旗バナー(訳注:『アメリカ愛国歌』〈ヘイル・コロンビア〉か『星条旗』〈スター・スパングルド・バナー〉を示唆していると思われる)がどうのと、あたりかまわず大声で歌ってました。立ってるのもままならないほど酔いつぶれてちゃ、なんの役にも立ちませんよ」

「どんな男だった?」ホームズが訊く。

 ジョン・ランスは話の途中で口をはさまれたのが気に食わなかったようだ。「だから言ってるでしょう、正体をなくすほどぐでんぐでんに酔った男だって。取りこみ中でなかったら、ブタ箱に放りこんでやったんですが」

「顔とか服装とか、なにか覚えていることはないのか?」ホームズがじれったそうに尋ねた。

「ありますとも。マーチャーの手を借りて抱き起こしてやったとき、はっきりと見ましたから。背が高くて、赤ら顔でしたね。あと、顔の下半分はマフラーらしきものを巻いていて──」

「もう、けっこう」ホームズが大声でさえぎった。「で、その男はどうした?」

「こっちは酔っぱらいの相手なんかしてる場合じゃないですからね」巡査は苦々しげに答えた。「一人でどうにか無事に帰ったでしょう」

「男の服装は?」

「茶色のコートを着てました」

「鞭むちを持っていたね?」

「鞭? いいえ」

「じゃあ、どこかに置いてきたんだな」ホームズはつぶやいた。「そのあと馬車を見かけるか、馬車の音を聞くかしなかったか?」

「いいえ」

「この半ソヴリンはお礼だ」ホームズはそう言って、帽子を手に立ちあがった。「ランス、きみは警察では出世できそうにないね。いいか、頭は使うためにあるんだ。ただの飾りじゃない。昨晩あんなへまをやらなければ、巡査部長に昇進できただろうにな。きみが抱き起こしてやった男こそ、今回の事件の鍵かぎを握る重要な人物であり、われわれが血眼になって捜している相手なんだ。まあ、いまさらこんなことを言っても遅いが、事実だから伝えておくよ。じゃ、行こうか、ワトスン」

 きょとんとしながらも、明らかに動揺した顔つきのランス巡査をあとに残し、私たちは馬車の待っている場所へ引き返した。

「あのぼんくらめ!」下宿へ戻る途中、ホームズはいきり立って言った。「千載一遇のチャンスをみすみす取り逃がすとは、なんという醜態」

「いまひとつ事情がのみこめないんだが。たしかにその酔っぱらいの人相はきみが話していた第二の人物にあてはまる。しかし、逃げたあとでわざわざ犯行現場へ舞い戻るだろうか? 犯人なら、そんなことはしないんじゃないかな」

「指輪だよ、きみ。やつは指輪を探しに戻ったんだ。こっちはたとえ万策尽きたとしても、あの指輪さえあれば、それを餌にいつでもおびき出せる。ワトスン、必ず犯人を捕らえてみせるよ。なんだったら二対一で賭かけてもいい。それはそうと、すべてはきみのおかげだ。きみがいなかったら、僕は現場へ出かけていく気が起こらなくて、この願ってもない研究対象を逃していたかもしれないからね。名づけて『緋ひ色いろの研究study』だな。こういう気取った美術用語(訳注:studyには習作の意もある)もまんざら捨てたものではないだろう? 人生という無色のもつれた糸の束には、殺人という緋色の糸がまじっている。僕らの仕事は、糸の束を解きほぐして緋色の糸をより出し、端から端までをつまびらかにすることなんだ。さて、すぐに昼食を済ませて、ノーマン・ネルーダを聴きに行くとしよう。彼女の演奏術はアタックといい、ボウイングといい、実に鮮やかだ。とりわけすばらしかったあのショパンの小品、曲名はなんだったかな? トゥラ・ラ・ラ、リラ・リラ・レイ……」

 素人探偵は馬車の座席にゆったりともたれ、雲雀ひばりのように楽しげにさえずり続けた。そのかたわらで私は、人の心はこんなにも多様な面を宿しているものなのかと驚きながら、じっくりと思いにふけったのだった。 


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12/01 08:51