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第5章 広告を見た来訪者(2)
日期:2023-10-30 15:44  点击:302

 今朝、ブリクストン通りにある〈白鹿亭〉とホランド・グローヴのあいだの路上で、金の平型の結婚指輪を拾得。心当たりのある方は、今夜八時から九時までのあいだにベイカー街二二一番地Bのワトスン博士をお訪ねのこと。

「勝手に名前を借りて申し訳ない」ホームズは詫わびた。「だが僕の名前にすると、あのとんまな警部どもが嗅ぎつけて、しゃしゃり出てきそうだからね」

「名前のことなら、いっこうに差しつかえないよ」私は言った。「ただ、本当に誰かが訪ねて来たら困るな。こっちには指輪がない」

「あるよ。ほら、これだ」ホームズは私に指輪を手渡した。「そいつで充分だろう。見た目はそっくりだから」

「この広告を見てどういう人物が来るか、予測はついているのかい?」

「もちろんさ。茶色のコートの男だよ。爪つま先さきが角張った靴を履いた赤ら顔のね。たとえ本人は現われなくても、仲間をよこすはずだ」

「危険が大きいとみて、あきらめるんじゃないかな」

「それはありえない。僕の見解が正しければ──どう考えても正しいに決まっているんだが──その男は指輪を取り戻すためなら、いかなる危険もかえりみないはずだ。たぶんドレッバーの死体にかがみこんだとき、知らずに落としたんだろうね。そして家を出てから指輪がないことに気づいた。急いで引き返したが、ろうそくの火を消し忘れたせいで早くも犯行が発覚し、警官が駆けつけていた。門のそばでうろついているのを怪しまれてはまずいと、やむなく酔っぱらいのふりをしたわけだ。さあ、ここで男の立場になってみよう。どうしたものか考えをめぐらせるうち、指輪は家を出たあとに路上で落としたのかもしれないと思い始める。では次にどうするか? 誰か拾った者はいないかと、夕刊の〈遺失物拾得欄〉に注意深く目を通すはずだ。当然、この広告が目に留まる。きっと快かい哉さいを叫んだだろうね。罠わなだと思うわけないさ。道に落ちていた指輪が例の殺人事件と結びつけて考えられる理由はひとつもないんだからね。やつは来るよ。きっと来る。一時間以内に必ずお目にかかれるさ!」

「来たらどうするんだい?」私は訊きいた。

「直接のやりとりは僕に任せてくれ。武器は持っているかい?」

「ああ、以前使っていた軍用拳けん銃じゆうと弾丸が少し」

「じゃ、手入れをして装弾しておいたほうがいい。相手は自暴自棄になってなにをするかわからないからね。そういう事態に発展しないよう巧みに敵の不意をつくつもりだが、用心に越したことはない」

 私は寝室へ行って、ホームズに言われたとおりにした。ピストルを手に居間へ戻ると、食卓はきれいに片付けられていて、ホームズは愛用のヴァイオリンを夢中でかき鳴らしているところだった。

「話が込み入ってきたぞ」私に気づいてホームズが言った。「たったいまアメリカから電報の返事が来た。やっぱり僕のにらんだとおりだったよ」

「というと?」私は知りたくてうずうずした。

「このヴァイオリンは弦を張り替えたほうがよさそうだな。ピストルをポケットにしまいたまえ。男が来たら、普段どおりの調子で迎え入れてくれ。あとは僕がやる。じろじろ見て、彼を不安にさせるようなことがないよう頼むよ」

「八時になった」私は時計を見て言った。

「ああ、あと数分で現われるだろう。ドアを少しだけ開けてくれないか。よし、それでいい。鍵かぎを内側から差しこんでもらえるかい? ありがとう! ところで、この古本は昨日露店で見つけたんだが、なかなか興味深いよ。『諸民族の法』という、一六四二年にロウランズのリュージュで出版されたラテン語の本なんだ。この茶色い背表紙の小さな本が印刷されたとき、チャールズ一世の肩にはまだ首が乗っかっていたわけか」

「印刷者は誰だい?」

「フィリップ・ド・クロワだ。どんな人物かは知らない。見返しに色あせてかなり薄くなったインクの文字で、〈グリエルミ・ホワイト蔵書〉と書いてある。英語だとウィリアム・ホワイトになるわけだが、何者だろう? 十七世紀の実用主義の法学者といったあたりかな。癖のある筆跡がいかにも法学者らしい。おや、どうやらおでましのようだ」

 ホームズがそう言っているそばから玄関の呼び鈴がけたたましく鳴りだした。彼は静かに立ちあがると、椅子をドアのほうへ移動させた。メイドが玄関ホールを横切っていき、ドアの掛け金をカチリとはずす音がした。


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