「僕の言ったとおりだろう? 実情がどうであれ、手柄は必ずレストレイドとグレグスンに行くと決まっているんだ」
「それは結果次第じゃないかな」
「いいや、そんなものはまったく関係ないね。犯人がつかまれば、両警部のおかげ。つかまらなければ、ご両人の努力もむなしく、ということになる。要するに、〝表が出れば俺の勝ち、裏が出ればおまえの負け〟の状態だ。どっちに転ぼうが、あの二人は大いに健闘をたたえられる。そうそう、フランス語でこういうのがあったね。〝愚か者を褒めるもっと愚かなやつがつねにいる〟」
「おや、なんだろう?」突然、玄関に騒々しい足音が響き、続いてドタドタと階段を駆けのぼってくる音が聞こえた。下宿の女主人が大声で叱りつける声がそれに重なる。
「あれは警察の別働隊、ベイカー街少年団だ(訳注:のちの『四つの署名』ではベイカー街不正規隊〈ベイカー・ストリート・イレギュラーズ〉として登場する)」ホームズは真面目くさった表情で言った。その言葉が終わるか終わらないかのうちに、見たこともないほど汚れたぼろ服の宿無し子たちが、部屋に雪崩を打って飛びこんできた。
「気をつけ!」ホームズが鋭い声で号令をかけると、六人の悪たれどもはみすぼらしい小像のようにさっと整列した。「いいか、これからはウィギンズだけを報告によこして、ほかの者たちは通りで待つように。で、ウィギンズ、見つかったか?」
「まだです、旦だん那な」少年の一人が返事をした。
「まあ、そうだろうな。では引き続き目を皿のようにして捜すこと。さあ、駄賃だ」ホームズは全員に一シリングずつ渡してやった。「よし、では解散。次回はもっとましな報告を持ってくるんだぞ」
ホームズが手をひと振りすると、少年たちはネズミの群れのようにすばしっこく階段へ向かい、次の瞬間には外の通りから甲高い声があがっていた。
「あの腕白小僧たちは、警官を一ダース動員するよりもずっと役に立つ」ホームズが言う。「いかにも警官らしい人間の前では、誰でも口を固く閉ざしてしまうものだ。そこへいくと、あの子たちはどこへでももぐりこめるし、どんなことでも訊ききだせる。頭の回転が速くて機転も利く。あと必要なのは組織力だけだろうな」
「ブリクストン事件の捜査にあの子たちを使っているのかい?」
「ああ、確かめたいことがひとつあってね。いまにわかるよ。時間の問題さ。おや! どうやら新しい知らせが届きそうだぞ。道の向こうをグレグスンが上機嫌で歩いている。たぶんここへ来るんだろう。ああ、やっぱりそうだ。立ち止まった。さあ、ご登場!」
玄関の呼び鈴がけたたましく鳴ったかと思うと、すぐに階段を二段抜かしで駆けあがる音が聞こえ、ブロンドのグレグスン警部が私たちの居間へ飛びこんできた。
「やあやあ、どうも!」ホームズの気のない手をぎゅっと握りしめて警部が挨あい拶さつした。「やりましたよ! この事件、わたしがきれいにかたをつけました!」
余裕をたたえたホームズの顔に、ふと不安の影がさしたように見えた。
「ということは、有望な手がかりでも見つかったんですか?」
「手がかり? そんな段階は通り越してますよ。犯人をつかまえたんです、犯人を!」
「で、犯人の名前は?」
「アーサー・シャルパンティエという海軍中尉です」グレグスンは厚ぼったい手をこすり合わせながら、得意げに胸を張った。
ホームズは安あん堵どのため息をつき、頰をゆるめた。