「まあ、そうですね」
「棒を手にドレッバーを追いかけていったと母親が話していましたが、それをまだ持っていましたよ。樫かしでできた太い棍こん棒ぼうでした」
「で、犯行についての推理は?」
「わたしはこう推理します。シャルパンティエ家の息子はブリクストン通りまでドレッバーを追いかけ、そこでまた口論となり、例の棍棒でドレッバーを殴り殺した。おそらく当たったのがみぞおちのあたりだったので、外傷は残らなかったんでしょう。あの晩はしのつく雨で人通りがなかったため、それをいいことに死体を空き家へ引きずりこんだ。ろうそくも血けつ痕こんも、壁の文字も指輪も、すべて警察の目をくらまそうとする小細工ですよ」
「おみごと!」ホームズは大げさにおだててみせた。「グレグスン君、本当にすばらしい。将来は出世まちがいなしですよ」
「ええ、自分で言うのもなんですが、今回は文句なしの出来だと思いますね」警部はさも誇らしげだ。「シャルパンティエ本人の供述によると、しばらくドレッバーをつけていったが、相手に気づかれて、辻つじ馬車で逃げられてしまったそうです。あきらめて帰る途中、海軍の昔の仲間にばったり会ったので、一緒に長い散歩をしたと言っていますが、その旧友の住所を尋ねると、まるで要領を得ない返事でしてね。とにかくまあ、今度の事件はわたしの推理がことごとく当たって、実に気分爽そう快かいですよ。哀れなのはレストレイドだ。見当ちがいなものをむきになって追いかけているんですからね。骨折り損のくたびれもうけとはこのことだ。おやおや、噂をすれば影!」
レストレイドがいつの間にか階段を上ってきて、だしぬけに姿を現わした。いつもの自信たっぷりで意気盛んな態度はどこへやら、うちのめされ、困り果てた表情だ。服装もだらしなく乱れている。明らかにホームズに助言を求めに来たらしく、同僚の姿を見てうろたえた。部屋の真ん中に突っ立って、どうしたものか思いあぐねるようにしばらく帽子をそわそわといじっていた。やがて意を決した様子で口を開いた。「これは非常に奇異な事件です──こんな複雑怪奇な事件は初めてです」
「へえ、そうかい、レストレイド!」グレグスンが勝ち誇った口ぶりで言った。「まあ、きみが壁にぶちあたることは最初からわかっていたがね。秘書のジョゼフ・スタンガスンはつかまったのかい?」
「秘書のジョゼフ・スタンガスン氏は」レストレイドは思いつめた口調で言った。「今朝六時頃、〈ハリデイ・プライベート・ホテル〉で殺されました」