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第7章 闇のなかの光(5)
日期:2023-10-30 15:52  点击:246

 そう約束されても、グレグスンとレストレイドはいたく不満そうだった。警察の能力を軽視するような発言も気にさわったのだろう。グレグスンは亜麻色の髪の生え際まで真っ赤になり、レストレイドはビー玉のような目を好奇心と憤慨でぎらぎらさせた。が、どちらも口を開かないうちに突然ドアをたたく音がした。現われたのは例の宿無し少年団の代表、ウィギンズだった。

「こんちは、旦だん那な」少年は前髪に手をやって言った。「馬車を呼んできましたよ」

「ご苦労さん」ホームズは淡々とした口調で答えた。そのあと抽斗ひきだしからスチール製の手錠を取りだしながら続けた。「スコットランド・ヤードはどうしてこの型を採用しないのかな。ほら、どうです、ばね仕掛けの部分がよくできているでしょう? これなら一瞬でかかりますよ」

「古い型で充分用が足ります。かける相手が見つかりさえすればね」レストレイド警部が切り返す。

「なるほど、ごもっとも」ホームズは笑いながら言った。「さて、では御者に荷造りを手伝わせるとしよう。ウィギンズ、ここへ呼んできてくれないか?」

 これから旅行にでも出発するような口ぶりなので、私はびっくりした。そんなことは一言も言っていなかったのに、いきなりどうしたんだろう。部屋には小さな旅りよ行こう鞄かばんがひとつあった。ホームズはそれを引っ張りだすと、しゃがんで帯革をかけ始めた。彼がせっせと作業しているところへ、御者がやって来た。

「ああ、御者くん、ちょっと手を貸してくれ。この締め金を留めるから」ホームズは鞄を膝ひざで押さえつけながら、振り向きもせずに言った。

 御者はむっつりとして、しぶしぶといった態度でホームズに歩み寄り、手伝おうと両手を突きだした。その瞬間、カチッという音と、金属のジャラジャラ鳴る音が響き、ホームズがすばやく立ちあがった。

「諸君!」ホームズは目を輝かせて叫んだ。「紹介しよう! イーノック・ドレッバーおよびジョゼフ・スタンガスン殺しの犯人、ジェファースン・ホープだ!」

 すべてはあっという間の出来事だった。まさに電光石火の早業だったので、なにがどうなったのかよくわからなかった。それでもあの瞬間の光景はまぶたに鮮明に焼きついている。ホームズの勝ち誇った顔と鋭く響き渡る声。啞あ然ぜんとして自分の手首を見下ろし、魔法のように突然出現したぎらつく手錠を凝視する、御者の鬼気迫る表情。少しのあいだ、私たちは彫像のように立ちつくしていた。だが、そのあと咆ほう哮こうさながらの怒号があがり、御者がホームズの手を振りほどいて窓へ突進した。激しい体当たりで木枠とガラスが砕け散ったが、外へ逃げだす前にグレグスンとレストレイドとホームズが猟犬の群れのごとく一斉に飛びかかった。御者は室内へ引きずり戻され、そのあとは格闘となった。猛たけり狂った男は相当な怪力の持ち主で、私たち四人を何度も跳ね飛ばした。かんしゃくの発作でも起こしたかのようなとてつもない破壊力だった。窓ガラスを突き破ったせいで顔も手も血だらけだというのに、まるでひるむ様子がなかった。だが、レストレイドがうまくスカーフの内側に手を突っこんで、窒息寸前まで喉のどを締めつけると、もはや抵抗しても無駄だとあきらめたのだろう、急におとなしくなった。しかしまだ気は抜けない。男の両手両足をぎゅうぎゅうに縛りあげてから、私たちはようやく肩で息をしながら立ちあがった。

「この男の馬車があるから、それに乗せてスコットランド・ヤードまで連行すればいい」ホームズが口を開いた。「さてと、諸君」嬉うれしそうに笑顔で続ける。「今回の謎めいた事件はこれで晴れて決着です。質問をなんなりと受けつけましょう。もう危険からは脱したので、返事を拒む理由はありませんからね」


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