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第1章 アルカリ土壌の大平原(6)
日期:2023-10-31 15:34  点击:231

「インディアン」という言葉が皆の口から次々に漏れた。

「このあたりにインディアンなどいるわけがない」一行を指揮しているとおぼしき初老の男がきっぱりと言った。「ポーニー族の居住地はすでに通過した。あとはあの大山脈を越えるまでどの部族とも出会わないはずだ」

「偵察に行ってきましょうか、スタンガスンさん」一人が言った。

 すぐに、「おれも行く」「おれも」と十数名から声があがった。

「馬を置いて徒歩で行け。われわれはここで待つ」さきほどの長老めいた男が命令を下した。若者たちはすぐさま地面に降りて馬をつなぎ、好奇心をかきたてる奇妙な物体に向かって絶壁をよじ登りはじめた。鍛え抜かれた斥候たちは自信をみなぎらせて機敏に手足を動かし、音もなく速やかに進んでいく。下の平地で待つ者たちに見守られながら、偵察隊は岩から岩へひらりと移り、やがて崖のてっぺんに到達して空を背景に姿を浮かびあがらせた。先頭に立つのは最初に布きれを見つけた若者だったが、突然ぎょっとして両腕を振りあげた。すると後続の者たちも同じものを目にして、驚きのあまり立ちすくんだ。

 岩と土がむきだしになった不毛の台地に巨大な丸石がひとつ横たわり、その陰に顎ひげが長く伸びた大柄な男が寝そべっている。顔つきが険しく、身体は骨と皮ばかりに瘦やせ細っているが、息遣いは規則正しく穏やかなので、ぐっすりと眠っているらしい。かたわらでは幼い少女がやはり深く寝入っていて、白いふっくらした腕を男の褐色に日焼けした筋張った首に巻きつけ、金髪の頭を男のビロードの上着の胸にうずめている。薔ば薇ら色いろの唇がかすかに開いて真っ白な歯がのぞき、あどけない寝顔にはいたずらっぽい笑みさえ浮かんでいる。ぽっちゃりした白い足は、先をたどると、ぴかぴかの留め金がついた白い靴と白い靴下に包まれ、男のしなびたひょろ長い足とは異様なほど対照的だ。この奇妙な取り合わせの二人連れを、先刻から頭上の岩棚にいる三羽のノスリが不敵な面構えで狙っていたが、いきなり邪魔者たちが現われたのを見て、悔しげなしゃがれた鳴き声とともにぷいと飛び去っていった。

 不吉で耳障りな鳥の声に、とうとう眠っていた二人が目を覚まし、不思議そうにあたりを見まわした。まもなく男はふらつきながら立ちあがって、崖の向こうの大平原を見下ろした。眠りに落ちたときは完全に空っぽだったその荒野に、なんといまは数えきれないほどの人と馬が一面に群がっている。信じられないとばかりに骨張った手で目をこすり、男は独り言をつぶやいた。「これが話に聞いていた幻覚というやつだな」いつの間にか少女がそばに来て男の上着の裾すそをぎゅっとつかみ、黙ったまま子供らしく物珍しそうな目であたりをきょろきょろと眺めた。

 忽こつ然ぜんと現われた救助隊が夢でも幻でもないことはすぐにわかった。一人がさっそく少女を抱きあげて肩に担ぎ、別の二人は瘦せ細った男を支え、馬車の停まっている場所を目指して歩きだしたからである。

「ジョン・フェリアだ」放浪者の男は名乗った。「最初は全部で二十一人いたが、生き残ったのはわたしとあの子だけだ。ほかの者は飢えと渇きで、ずっと南のほうで死んでしまった」

「あの子はあなたの娘さんか?」誰かが尋ねた。

「ああ、そうだとも、わたしの娘だ」フェリアの声が急に頑かたくなな調子を帯びた。「ここまで守り抜いたんだ、決して手放すものか。いまからあの子はルーシー・フェリアだ。ところで、あんた方はどこの者たちだね?」日に焼けた屈強な男たちを好奇心のこもった目で見つめ、フェリアは訊きいた。「かなりの大所帯のようだが」

「一万人近くいます」若者の一人が答えた。「われわれは虐げられた神の子、天使モロニの選ばれた民です」


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