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第3章 ジョン・フェリア、預言者と相まみえる(1)
日期:2023-10-31 15:42  点击:261

第3章 ジョン・フェリア、預言者と相まみえる

 ジェファースン・ホープが仲間たちとソルトレイク・シティを発たってから、三週間が経過した。あの若者が戻ってきたときには、大事な愛まな娘むすめを手放さなければならない。そう考えると、ジョン・フェリアは胸ふたがれる思いだった。それでも寂しさになんとか折り合いをつけて、この結婚を認めてやろうという気になったのは、娘の晴れやかで幸せそうな顔を見たからにほかならなかった。かねがね、なにがあろうと娘は絶対にモルモン教徒とは結婚させないと固く決心していた。モルモン教徒の結婚制度は恥と屈辱以外の何物でもなく、とうてい結婚とは呼べない。モルモン教の教義全般についての評価はさておき、一夫多妻制だけは断じて受け入れられなかった。とはいえ、その種の問題についてはこれまでひたすら沈黙を守ってきた。異端の見解を表明することは、当時の〝聖徒たちの国〟では危険このうえない行為だったからである。

 そう、いうなれば自ら墓穴を掘るような行為である──よって、どんなに敬けい虔けんな信者でも、宗教上の意見を述べるときは必ず声をひそめ、誤解を招く言葉をうっかり口にして懲罰を加えられることのないよう細心の注意を払った。過去に迫害を受けた犠牲者たちは、いまや自らが迫害者となっていた。それも情け容赦のない残酷な迫害者に。セビリアの宗教裁判やドイツの秘密裁判制度、イタリアの秘密結社など、悪名高い例は数えあげればきりがないが、それらのどれよりも冷酷無比なのが、当時のユタ州に暗い影を落としていたこの宗教組織だった。

 神秘のベールに覆われて正体をとらえにくいため、教団はなおさら恐ろしいものに感じられた。全知全能の絶対的存在をあがめたてているが、その姿を見た者や声を聞いた者は一人もいないのだ。教団を批判した男は忽こつ然ぜんと姿を消してしまい、彼がどこへ行ったのか、いかなる運命をたどったのか、誰にもわからずじまいだった。妻子の待つ自宅には二度と帰らなかったため、秘密裁判でどのような判決が下ったかを家族が本人の口から聞くことは結局できなかったのだ。うかつな発言や性急な行動は命取りになりかねない。しかも頭上の脅威である恐ろしい力の正体は、完全なる闇に包まれている。当然ながら、人々は絶えず不安におののき、たとえ荒野の真ん中であっても、胸にわだかまっている疑念を小声で漏らすことさえできないのだ。

 初めのうち、この謎に満ちた恐ろしい力が降りかかるのは、モルモン教に帰依したにもかかわらず、教えに逆らったり、棄教しようとしたりする信者たちに対してだけだった。ところが、まもなくしてそれ以外のところへも影響が及ぶようになった。一夫多妻制を土台で支える女性の数が不足し、その制度が脅かされ始めたことが原因である。あちこちで妙な噂が後を絶たなかった。先住民の姿など見かけたことのない安全なはずの地域で、移民が殺害されたり、野営地が襲撃されたりする事件が起こり、そのあとにはなぜかモルモン教団の長老たちのハーレムで女性の数が増えた。新しく来た女たちは皆、悲しみにやつれ果て、顔には激しい恐怖の跡をくっきりととどめているという。また、行き暮れて山中で野宿した旅の一行は、暗闇のなか武装した覆面の賊どもが足音もたてずこっそり通り過ぎるのを見たと語った。そうした噂や風聞のたぐいは、目撃談が積み重なるにつれて実体をなし、いっそう真実味を帯び、とうとう明確な呼称を与えられるまでになった。今日でも西部の人里離れた牧場などでは、〝ダナイト団〟だの〝復ふく讐しゆうの天使たち〟だのといった固有名詞が、災いをもたらす凶兆として住人の口の端にのぼることがある。

 こうして正体不明だった組織がいまわしい姿をさらけだすと、人々は恐怖心をますますつのらせた。誰が残虐行為に及ぶ集団に属しているのかはいっさいわからず、信仰心を隠かくれ蓑みのに血と暴力に手を染めているメンバーの名前は極秘扱いになっていた。相手が親友だからとつい気を許し、預言者とその使命に対する疑いをうっかり打ち明けようものなら、まさにその親友が、夜になってから松明たいまつと剣を手に残酷な処罰を下しに現われるかもしれないのだ。そのため誰もが隣人を警戒し、本音は決して口に出そうとしなかった。


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