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第3章 ジョン・フェリア、預言者と相まみえる(3)
日期:2023-10-31 15:44  点击:295

「しばらくの猶予をいただきたい。娘はまだほんの子供です。あの歳では、結婚は早すぎます」

「ひと月の猶予を与える」ヤングは椅子から立ちあがった。「ひと月後、どちらを選ぶか返事を聞かせてもらおう」

 玄関を出ようとしたところで、ヤングは怒気に赤く染まった顔で振り返った。「ジョン・フェリアよ」目をらんらんと光らせ、とどろくような声で言う。「もしおまえが聖なる長老の命令に背くような信仰心の薄い人間ならば、生きていることを後悔するはめになるぞ。あのとき娘とともにシエラブランカの山で白骨と化していたほうがましだったと思うだろうよ!」

 ヤングは拳こぶしを振りあげて威嚇したあと、ドアから出ていった。庭の砂利道をざくざく踏みつける音がそれに続き、フェリアの耳のなかで鈍く響いた。

 娘に話をどう切りだせばいいのだろう。フェリアが膝ひざに肘ひじをついて頭を抱えこんでいると、やわらかい手が彼の手にそっと重ねられた。顔を上げたフェリアの目に映ったのは、かたわらに立っているルーシーの姿だった。ショックに青ざめた顔から、娘はさっきのやりとりを耳にしたのだとわかった。

「聞こえてしまったの」娘は父親の問いたげな視線に答えて言った。「家中に響く大声だったから。ああ、父さん、大変なことになったわ。どうしたらいいの?」

「だいじょうぶだ、怖がらなくていい」フェリアは娘を抱き寄せ、大きなごつい手で栗色の髪を優しく撫なでた。「きっとなんとかなる。それより、おまえ、あの若者への気持ちは冷めていないんだろうね」

 ルーシーは返事の代わりに、すすり泣きながら父親の手をぎゅっと握りしめた。

「そうか、そうか、わかったよ。それならいいんだ。気が変わったなんていう返事はわたしも聞きたくないからね。あれはなかなか頼もしい若者だ。れっきとしたキリスト教徒でもある。ここの青二才どもが祈りだの説教だのにどれだけ励もうが、絶対にあの若者にはかなわんよ。たしか、明日ネヴァダへ向けて出発する一行があったな。伝言を頼んで、われわれの窮地を彼に知らせよう。あの男のことだ、きっと飛んで帰ってくるさ。電報を追い越さんばかりの速さでな」

 父親のおどけた言い方に、ルーシーは泣きながら笑った。

「ええ、そうね。あの人が帰ってくれば、きっといい手立てを考えてくれるわ。でも、わたしが気がかりなのは父さんのこと。噂が──ぞっとする噂があるんだもの。預言者に逆らった者には、必ずや恐ろしい災いが降りかかるって」

「いや、まだ逆らってはおらんよ。それに、いずれそうなったときの危険にそなえる時間もある。丸一ヶ月もな。いざとなったら、このユタとおさらばするしかあるまい」

「ユタを出るの?」

「まあ、そういうことだ」

「でも、農場は?」

「できるかぎり金に換えて、残りはあきらめるしかないだろう。実を言うとな、ルーシー、ユタを離れようと考えたのはこれが初めてではないんだ。わたしは相手がどんな人間であれ、言いなりになるつもりは毛頭ない。ここの連中みたいに、いまいましい預言者に押さえつけられたまま生きるのはまっぴらだ。わたしは自由な精神のもとに生まれたアメリカ人だからね。この歳になって、いまさらやり方を変えられるわけがない。あいつめ、うちの農場を勝手にうろついてみろ、真正面から散弾銃をぶっ放してやる」

「でも、わたしたちがユタを出ていくのを、ここの人たちが黙って許すわけないわ」

「ジェファースンが戻ってくるのを待とう。彼の助けがあればなんとかなるさ。だからルーシー、それまでは気落ちした素振りは見せるんじゃない。泣きはらした目などしていたら、また文句を言われてしまう。とにかく当面はなにも心配しなくていい。危険はないんだから」

 そう言って娘を励ますジョン・フェリアの口調は力強く確信に満ちていたが、その晩、父親がいつになく厳重に戸締まりするのを、ルーシーは見逃さなかった。そのあとで寝室の壁にかけてあった古くて錆さびついた散弾銃を念入りに掃除し、弾丸をこめたことも。


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